令和2年(2020年)予備試験刑事実務基礎答案

武藤遼のプロフィール

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初めまして、武藤遼といいます。 まずは自己紹介をさせていただきます。 僕は今、司法試験の受験指導をしています。大学4年生の時からこの仕事をやっています。 武藤流というブランドで教えてます。僕は今25歳なので、3年近く受験指導をしていることに[…]

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2020年刑事実務基礎問題

答案

第1 設問1 

1 小問⑴

⑴ V方1階居間中央の応接テーブル上面にAの指紋が付着していた事実は、AがV方に上がったことを示している。Aは度々Vの自宅を訪れていたものの、令和2年2月1日以前にV方に上がったことはなかった。そして、同日午後1時45分頃にBはテーブルを掃除し、午後2時ごろ外出し、午後9時45分頃に帰宅している。Bがテーブルを掃除したことにより、それ以前にAの指紋がついていたとしてもそれが残っていることは考え難いから、Aの指紋が付着するなら午後2時から午後9時45分頃までの間といえる。同時間帯はVが殺害された時間帯と一致し、その時間帯にAがVの自宅内にいたことはAが犯人である事実を推認させる。

⑵ もっとも、上記事実はAがVの自宅内にいた事実を示すにすぎず、AがVの自宅にあがったとしても、Aと話をしただけの可能性も考えられる。テーブルにAの指紋が付着していたという事実だけでは、その可能性を排除できず、AがV宅内でどのような行為を行ったかまでは認定できない。そのため、上記事実の推認力は限定的なものにとどまる。

2 小問⑵

⑴ Cは、令和2年2月1日の夜、Aが電話で「むかついたので人をナイフで刺してやった。刺したナイフは,高校の近くのM県N市O町にある竹やぶに投げ捨てた。さすがに見付かることはないよな。」と言ったと供述している。証拠⑧によれば、令和2年2月1日午後9時頃に、Aの携帯電話からCの携帯電話に着信があった事実が認められ、これは上記Cの供述と整合する事実である。また、証拠⑨によれば、M県N市O町にある竹やぶから血痕様のものが付着したナイフが見つかった事実が認められ、これはBの供述の信用性を裏付ける。また、Cは供述に至った経緯について、最初は冗談かと思って受け流していたが、ニュースを見てAが刺したと思い、Aに償って欲しいと思ったためと述べているが、供述に至る経緯は具体的である。そして、供述も電話があった日から数日しか経っておらず、上記のように客観的事実と整合性が認められることからすれば、Cの供述は信用性があるといえ、供述通りの事実が認められる。

⑵ 発見されたナイフの刃体の長さは約15.5センチメートルであるところ(証拠⑨)、これはVの死因となった胸部刺創が深さ15センチメートルに達した事実(証拠⑪)と整合する。また、上記ナイフに付着していた血液のDNA型はVのものと一致した(証拠⑩)。これらの事実からすれば、上記ナイフはVの殺害に使用されたナイフである事実が認定できる。

⑶ Cの供述だけでは、Aが刺した人物が誰であるか特定できないが、発見されたナイフがAの殺害に使用された凶器であるという事実と合わせて考えれば、AがV以外の人物を刺したという可能性は考え難い。そのため、これらの事実はAの犯人性を十分に推認させる。

第2 設問2

1 小問⑴

V方からの物音を聞いたW2以外の者の供述録取署は321条1項3号の書面に該当する。そのため、Aの弁護人は、316条の15第1項3号に該当するとして、証拠開示の請求をすべきである(同条1項本文)。その際、①証拠の類型を識別するに足りる事項(同条3項1号イ)と②当該証拠の開示が重要であること(同号ロ)を示す必要がある。まず、①の内容として、開示を求める証拠は、犯行が行われた時刻頃にV方からの物音を聞いたW2以外の者の供述録取書であることを明らかにするべきである。次に、②の内容として、当該供述録取署は、証拠⑦中のW2の供述の証明力を判断するために必要であることを明らかにするべきである。

2 小問⑵

証拠⑥は、V方から男性の怒鳴り声が聞こえたとする、V方西隣の住民W1の供述録取署であり、321条1項3号の書面に該当する。そして、W1は、W2と同じく、犯行時刻頃にV方から聞こえてきた物音について述べており、W2の供述の証明力を判断するにあたって重要といえる。そのため、証拠⑥は316条の15第1項3号の要件を満たす。もっとも、W1は、怒鳴り声を上げていた男性が誰であるかや何と言っていたかなど具体的なことは述べておらず、開示しても検察官側にとって大きな不利益が生じることは考え難いため、開示に応じたと考えられる。

第3 設問3

1 結論

証拠排除決定をすべきではない。

2 理由

⑴ Cは、その証言において、「むかついたので人をナイフで刺してやった。刺したナイフは,高校の近くのM県N市O町にある竹やぶに投げ捨てた。さすがに見付かることはないよな。」という公判期日外における他人Aの発言について述べている。そのため、同発言が伝聞証拠にあたるため、弁護人は証拠排除を求めたと考えられる。

⑵ 伝聞証拠とは、公判期日外の供述を内容とする証拠で、その供述内容の真実性を立証するために提出・使用される証拠をいう。上記Aの発言は、Cとの電話においてなされた発言であり、公判期日外の供述を内容とする。次に、かかる発言による要証事実を検討する。本件ではAの殺意が争点となっているところ、上記発言は、その発言自体をもってAの殺意を推認させるものとなっており、内容の真実性を吟味しなくとも殺意の存在を立証する事実となりうる。そのため、要証事実は上記発言の存在及び内容といえ、内容の真実性は問題とならない。したがって、Aの発言は伝聞証拠に当たらない。

⑶ よって、裁判所は証拠排除決定をすべきではない。

第4 設問4

1 裁判所は、適当と認めるときは勾留の執行停止をすることができる(95条)。そして、執行停止が適当であるかどうかは、証拠隠滅や逃亡の恐れがないかどうかで判断されるべきである。Aは、父親の葬儀に出席するために執行停止を求めると考えられるところ、これはAが予想もしていなかった不慮の事態であり、証拠隠滅や逃亡のために申し出ているとは考え難い。そのため、執行停止が適当であるといえ、勾留の執行停止が認められる。

2 次に、Aの弁護人が採るべき手段としては保釈の請求をすることが考えられる。

⑴ まず、89条各号の事由がないかを検討する。本件の被疑事実は殺人罪(刑法199条)であり、「死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪」にあたる(刑事訴訟法89条1号)。そのため、同条に基づく保釈は認められない。

⑵ 次に、裁量保釈(90条)が認められるかを検討する。裁量保釈の検討においても、証拠隠滅や逃亡の恐れがないかを検討するべきであるが、前述の通り父親の葬儀は予定されていなかった事態であることを考えれば、誰かに証拠隠滅を依頼したり、葬儀を利用して逃亡を図ったりすることも考え難い。また、近親者の葬儀に参加できず身体拘束を継続されるAの不利益は大きい。そのため、保釈を認めることが適当といえ、同条に基づく裁量保釈が認められる。

以上

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