令和2年(2020年)予備試験刑法答案

武藤遼のプロフィール

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初めまして、武藤遼といいます。 まずは自己紹介をさせていただきます。 僕は今、司法試験の受験指導をしています。大学4年生の時からこの仕事をやっています。 武藤流というブランドで教えてます。僕は今25歳なので、3年近く受験指導をしていることに[…]

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2020年刑法問題

答案

1 甲が、本件居室の賃貸借契約書(以下、「本件契約書」という。)の賃借人欄に現住所及び変更前の氏名を記入した行為に有印私文書偽造罪が成立しないか(159条1項)。

⑴ 本件契約書は賃貸借契約の成立を証明するものであり、「権利、義務…に関する文書」といえる。

⑵ では、上記行為は「偽造」にあたるか。

ア この点について、同罪の保護法益は私文書に対する公共の信用にある。そして、文書に対する信用はその文書の作成者が誰であるかということにあるから、「偽造」とは、文書の名義人と作成者の同一性を偽ることをいうと解する。

イ これを本件についてみる。本件文書には変更前の氏名が用いられており、文書から理解されるその意思または観念の主体たる名義人は変更前の氏名としての甲である。甲は養子縁組によって氏名を変更しているものの、自営していた人材派遣業や日常生活においては変更前の氏名を用いていた。しかし、甲は人材派遣業や日常生活に供する目的で本件居室を賃貸しているのではなく、暴力団の組員としてXを監視する目的で本件居室を賃貸しようとしている。そうだとすれば、本件居室の賃貸借契約は暴力団組合員としての活動と考えられるべきであり、文書に意思を表示させた作成者は変更後の氏名としての甲といえる。そのため、本件では文書の作成者と名義人が異なる。

ウ したがって、甲の行為は「偽造」にあたる。

⑶ 上記の事情からすれば、変更前の氏名は「他人」の「署名」と評価できる。

⑷ そして、これをBに渡すつもりであり、前記偽造文書を内容の真正な文書として他人に認識しうる状態に置く意思を持っていたといえるから「行使の目的」もある。

⑸ よって、同罪が成立する。

2 同「文書」をBに渡し確認させた行為は、実際に偽造文書を内容の真正な文書として他人に認識させたといえるから「行使」にあたり、同行為に偽造有印私文書行使罪が成立する(160条)。

3 甲が、Bに対し、X組組員であることは告げず、その目的を秘しつつ本件居室の賃貸借契約を締結した行為に詐欺罪(246条2項)が成立するか。

⑴ まず、「欺」く行為とは、相手方が真実を知っていれば処分行為を行わないような重要な事実を偽ることをいう。本件では、甲に家賃等必要な費用を支払う資力や意思があることからすれば、賃借人として重要な事実を偽っていないとも思える。しかし、賃貸借契約に通常の賃貸借の内容に加え、本件条項が設けられていた。本件居室のあるマンションが所在する某県では、不動産賃貸借契約には本件条項を設けることが推奨されており、県全体として暴力団を排除しようという風潮が存在していた。また,暴力団員又はその関係者が不動産を賃借して居住することによりその資産価値が低下するのを避けたいとの賃貸人側の意向から本件条項が設けられるのが一般的であり、Bも甲に対し本件条項の内容を説明していることからすれば、本件条項は本件賃貸借契約において重要な内容であったといえ、甲が暴力団関係者だと知っていれば本件居室の賃貸借契約を締結することはなかったといえる。そのため、甲が実際には暴力団であるにもかかわらず、暴力団関係者であると発覚する恐れのある変更後の名前を避けて変更前の氏名を使用し、変更前の氏名が記載された運転免許証及び通帳を示した行為は「欺」く行為に当たる。

⑵ 上記「欺」く行為によって、甲はBと賃貸借契約を締結し、「財産上不法な利益」を得ている。

⑶ したがって、同罪が成立する。

4 甲が、丙に対し、顔面を拳で殴り、足でその腹部を蹴るなどした行為に傷害致死罪(210条)が成立するか。

⑴ まず、同罪の構成要件を検討する。

ア 本件では、丙の顔面を拳で1回殴った行為と丙の腹部を足で3回蹴った行為が存在するところ、両行為は時間的に近接し、同一の場所で行われている。そのため、これらは一つの行為として考える。上記行為により丙は急性硬膜下血腫及び加療約1週間を要する腹部打撲の「傷害」を負っており、上記行為は傷害罪の実行行為にあたる。

イ 丙は、上記行為による急性硬膜下血腫により「死亡」しており、上記行為と死亡との間に因果関係がある。

ウ 丙は、行為時には加重結果である死亡について認識していなかったものの、死亡結果と因果関係のある暴行行為についての認識・認容があったため同罪の故意があるといえる。

⑵ 甲は、丙が着衣のポケットからスマートフォンを取り出した際に上記行為を行っており、法益侵害の危険が切迫していたといえないから、「急迫不正の侵害」があったとはいえず、甲の行為に正当防衛(36条1項)は成立しない。

⑶ そうだとしても、甲は丙がスタンガンを取り出したと勘違いして上記行為を行っており、誤送防衛が成立して責任が阻却されないか。

ア この点について、責任故意の本質は規範に直面して反対動機を形成することが可能であったにもかかわらず、あえて行為に及んだことに対する道義的非難にある。そして、違法性阻却事由を基礎づける事実を誤信していた場合、規範に直面していたとはいえないからこのような場合には責任故意が阻却されると解する。

イ これを本件についてみる。甲は、丙が取り出したものがスタンガンであると誤診しており、かかる甲の認識を基礎とすれば法益侵害の危険が切迫していたといえ、急迫不正の侵害があったといえる。そして、甲は、自己の身を守るために上記行為を行っており、「自己の権利」を「防衛するため」といえる。スタンガンを使用されれば甲は意識を失う可能性があり、何らかの防衛行為に出る必要性があった。しかし、急性硬膜下血腫の傷害を負わせるほどの殴打行為に加え、意識を失った丙の腹部に複数回の足蹴りを加える行為は社会通念上許容される防衛行為とはいえず、「やむを得ずにした行為」には当たらない。

ウ したがって、誤送防衛ではなく誤送過剰防衛が成立する。

⑷ よって、同罪が成立する。

5 以上より、Bに対する①有印私文書偽造罪、②偽造有印私文書行使罪、③詐欺罪及び丙に対する④傷害致死罪が成立する。①、②及び②、③はそれぞれ手段と結果の関係にあるから全体として包括一罪となり、これと④は社会通念上別個の行為であるから併合罪となる(45条前段)。甲はかかる罪責を負う。

以上

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