国際私法令和2年(2020年)司法試験第2問答案

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初めまして、武藤遼といいます。 まずは自己紹介をさせていただきます。 僕は今、司法試験の受験指導をしています。大学4年生の時からこの仕事をやっています。 武藤流というブランドで教えてます。僕は今25歳なので、3年近く受験指導をしていることに[…]

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2020年司法試験国際私法

答案

第1 設問1について

1 本件訴えにおいて日本の裁判所に管轄権が認められるかは、民事訴訟法3条の2以下により判断される。

⑴ まず、3条の2第3項は、被告の応訴の負担を考慮して、被告の主たる営業所地が日本にある場合は、日本に管轄権を認めている。しかし、Yは甲国以外に営業所を有していないから、同項の要件を満たさない。

⑵ 次に、本件訴えは、未払代金1億円の支払いを求める訴えであり、「金銭の支払を請求する」(3条の3第3号)ものである。そして、Yは、建設資材Mの製造方法に関連した発明について、日本で特許権を有している。そのため、「差し押さえることができる被告の財産が日本国内にある」といえ、また、その特許権の評価額は5000万円であるから「その財産の価額が著しく低い」(同号括弧書き)とはいえない。したがって、本件は「財産権上の訴え」に該当し、同号の要件を満たす。

⑶ そして、Yは甲国以外に営業所を有しないため、応訴の負担は一定程度あると考えられるものの、Xの営業所は日本にあり、商品Gやそのサンプル等証拠となりうるものの所在は日本にある。そのため、「特別の事情」(3条の9)は本件において存在しない。

2 よって、本件訴えに関して、日本の裁判所は国際裁判管轄権が認められる。

第2 設問2について

1 本件訴えは、契約違反によって被った損害賠償を求めるものであるところ、これは「法律行為の効力」の問題として、法の適用を求める通則法(以下、「法」という。)7条によって判断される。

  同条は、当事者自治の観点から「当事者が当該法律行為の当時に選択した地」を連結点としている。本件契約では、「⑸ 甲国法を準拠法とする。」との条項があるから、本件契約の準拠法は甲国法となる。

2 もっとも、当事者は、法律行為の効力の準拠法を事後的に変更することができる(法9条)。その趣旨は、行為時の準拠法選択において当事者自治が認められているように、行為後においても準拠法選択において当事者自治を認める点にある。本件で、X及びYによる明示的な準拠法の変更は行われていないものの、両者は本件訴えにおいて日本の民法の適用があることを前提に主張を行なっている。そのため、黙示的な準拠法変更があったといえるか。

⑴ この点について、同条の趣旨は準拠法選択について当事者の意向を尊重し、当事者自治を認める点にある。そのため、当事者の合理的な意思として準拠法を変更すること意思があるといえる場合には、明示的であるか黙示的であるかを問わず、準拠法の変更が認められると解する。

⑵ これを本件についてみる。本件では、明示的な準拠法の変更は行われていない。しかし、X及びYはともに、本件訴訟において日本の民法の適用があることを前提に主張を行なっており、当事者の合理的な意思として甲国法ではなく日本法を準拠法とする意思があるということができる。

⑶ したがって、準拠法を日本法とする黙示的な準拠法変更があったといえる。

3 よって、裁判所は、この請求について、日本の民法を適用して判断することができる。

第3 設問3小問1について

1 本件訴えにおいて、ウィーン売買条約が適用されるためには、同条約1条⑴の要件を満たす必要がある。

2 まず、同条⑴⒜の要件を検討するに、日本はウィーン売買条約の締約国であるが、甲国は締約国ではない。そのため、「いずれも締約国である」とはいえず、同項の要件を満たさない。

3 次に、同条⑴⒝の要件を検討する。同項にいう「国際私法」とは法定地の国際私法をいうところ、本件では日本の国際私法である法7条以下の規定によって判断される。

⑴ 法7条は、当事者自治の観点から、当事者の選択による準拠法の決定を認めている。しかし、本件契約には、準拠法は明示的にも黙示的にも定められていない。

⑵ 当事者による準拠法の選択がない場合、当該法律行為の成立及び効力は、当該法律行為当時において最も密接な関係がある地(最密接関係地)を連結点として準拠法を決定する(8条1項)。その趣旨は、準拠法決定の必要性及び当事者の予測可能性の観点から中立的な法を定める点にある。

ア 最密接関係地の決定にあたり、当事者の一方が「特徴的な給付」を行う場合は、当該当事者の常居所地が最密接関係地と推定される(同条2項)。「特徴的な給付」とは、当該契約を特徴付ける給付をいうところ、双務契約の場合は金銭給付の反対給付が「特徴的な給付」に該当する。本件契約は双務契約であるところ、金銭給付の反対給付はXによる商品Gの給付である。そして、Xは日本以外に営業所を有しない会社であるから、Xの常居所は日本であるといえ、本件では日本が最密接関係地と推定される。

イ そして、Yは甲国以外に営業所を有しないものの、本件売買契約の対象である商品Gやそのサンプルは日本に所在しており、上記最密接関係地の推定を覆す事情は存在しない。

ウ したがって、本件の準拠法は日本法となる。

⑶ よって、「締約国」である日本の「法の適用が導かれる」といえ、ウィーン条約1条⑴⒝の要件を満たす。

4 裁判所は、以上のような判断によって、ウィーン条約を適用することとしたと考えられる。

第4 設問3小問2について

1 本件訴訟においてウィーン売買条約が適用されたことにより、売主であるXが本件契約に基づく義務を履行しないといえる場合には、Yによる損害賠償請求が認められることになる(45条1項⒝)。

2 そこで、Xの義務履行違反があったかを検討する。本件契約にウィーン条約が適用される場合、商品Gは35条⑵各号の要件を満たす必要がある。

⑴ まず、Xが引渡した商品Gはサンプルと比べて強度が不足しており、建設資材Mの製造のための原材料として使用することができなかった。しかし、Yの工場は先端的な設備を有する工場であったがために商品Gを使用できなかったのであり、Xが引渡した商品Gは「通常使用されるであろう目的に適したもの」であったということはできる(同項⑴)。

⑵ 次に、Yは、Xに対して、商品Gを先端的な設備を有するYの工場で使用することなどの特定の目的を一切伝えていなかった。そうだとすれば、「契約の締結時に売主に対して明示的又は黙示的に知らされていた特定の目的」はなかったといえるから、同項⑵の要件も満たしている。

⑶ もっとも、Xが引渡した商品Gは、Xが事前にYに送付したサンプルと比べて強度が不足するものであった。そのため、「見本又はひな形として示した物品と同じ品質を有するもの」であったとはいえず、同項⑶の要件を満たさない。

⑷ したがって、本件においてXが引渡した商品Gは契約に適合しないものであった。

3 よって、Xは契約に基づく義務を履行したとはいえず、5条1項⒝による損害賠償が認められることになる。裁判所は以上のような判断過程を経て、Yの請求を認めたと考えられる。

以上

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