平成30年(2018年)予備試験憲法答案

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初めまして、武藤遼といいます。 まずは自己紹介をさせていただきます。 僕は今、司法試験の受験指導をしています。大学4年生の時からこの仕事をやっています。 武藤流というブランドで教えてます。僕は今25歳なので、3年近く受験指導をしていることに[…]

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2018年憲法問題

答案

第1 法律上の争訟性

1 「法律上の争訟」(裁判所法3条1項)とは、当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、それが法令を適用することにより終局的に解決することができるものをいう。

2 これを本件についてみる。Xに対する処分1は、陳謝文を公開の議場で朗読させることを内容とし、処分2は議会からXを除名することを内容とする。これらは、いずれも地方議会内部における事項であり、一般市民法秩序と直接関連しない純然たる内部紛争として司法審査の対象とならないとも思える。

しかし、議会から除名されるということは議員という地位を失うこと、すなわちAの生活の基盤が失われるということであり、地方議会の内部規律の問題にとどまらず、一般市民法秩序につながる問題であるといえる。そして、処分2は処分1に従わないことを理由としており、処分2の審査のためには処分1についても司法審査を及ぼす必要がある。そうすると、処分1及び処分2は、ともにXとA地方議会という当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であり、法律を適用することにより終局的に解決することができるものであるといえる。

3 したがって、処分1および処分2は「法律上の争訟」にあたる。

第2 Xの憲法上の主張

1 Xは公開の議場において自らの意に沿わない陳謝文を朗読しない自由を有しているところ、処分1は自己の意思に反する陳謝文の朗読を強制する点で上記自由を侵害している。そのため、処分1の合憲性を検討する。

⑴憲法19条は思想・良心の自由を保障し、自己の意思に反した意見の公に対する表明を強制されないことも個人の人格形成に関する内面的精神作用であるといえるから、上記自由は同条によって保障される。

⑵そして、処分1は、公開の議場においてXの意に反して陳謝文の朗読を強制させるものであり、上記自由を侵害する。

⑶思想・良心の自由は個人の精神的自由の中枢を占めるものであるから、上記自由は重要である。そして、自己の意に反する陳謝文を公開の議場という開かれた場で朗読させることは上記自由に対する重大な制約である。そこで、必要最小限度の制約であるといえる場合に限り許される。

(4)処分1の目的は、誤った事実に基づく他の議員への不適切な発言をしたことに対して反省を促すことで、Xの議員活動の健全性を確保する点にある。しかし、Xの本件発言は、当時一定の調査による相応の根拠に基づいて行なった正当なものであり、意に反して謝罪をしなければならないほどの行為ではない。また、自己の意思に反した謝罪がXの議員としての活動を健全化させる効果を有するとは言い難い。そのため、必要最小限度の制約とはいえない。

(5)よって、処分1は違憲である。

2 XはA市議会議員として活動する自由を有しているところ、処分2はXをA市議会から除名するものであり上記自由を侵害している。そのため、処分2の合憲性を検討する。

⑴憲法21条1項は表現の自由を保障しているところ、表現活動には政治的活動も含まれる。そのため、A市議会議員としての議員活動も同項によって保障される。

⑵処分2は、除名という処分によりA市議会議員の身分を剥奪するものであり、上記自由を侵害している。

⑶間接民主制において、地域住民の代表たる地方議員の活動が保障されることは地域住民全体の利益にとって重要である。さらに、議員の身分を剥奪する除名処分はその者の生活基盤を失わせるという点で相当に重いものである。そこで、必要最小限度の制約である場合に限り許される。

(4)処分2の目的は、議員としてふさわしくない人物を排除することにより議会内部の健全性を確保することにある。しかし、陳謝文の朗読に従わなかったという処分に対する制裁として、除名処分は重すぎる処分である。そのため、必要最小限度の制約とはいえない。

(5)よって、処分2は違憲である。

第3 想定される反論および私見

1 想定される反論

⑴陳謝文の朗読は思想・良心の自由に対する制約の程度として強度なものとはいえず、また地方議会には自律権の内容として懲罰権が認められていることから、地方議会には議員の活動に対する処分についての裁量が認められる。そのため、相当程度の制約が許される。

事実に反した発言をしたことに対し、謝罪の意を表明させることは当該行動に対する反省を促すために効果的な手段といえる。また、陳謝文の朗読を強制することが過度の処分であるとはいえない。

よって、処分1は相当程度の制限といえ、合憲である。

⑵除名処分についても地方議会の懲罰権の一内容として議会に裁量の余地が認められている。そこで、相当程度の制約が許される。

除名は重い処分ではあるが、処分1に従わなかった以上やむを得ないものであるといえ、相当程度の制限といえる。よって、処分2は合憲である。

2 私見

⑴処分1について

ア Xの主張通り、Xの主張する自由は憲法19条によって保障される。また、処分1は上記自由を制約している。

イ Xの主張通り、思想・良心の自由は重要である。他方で、反論の主張通り、処分1は陳謝文を朗読させるに過ぎず、懲罰の手段として重いものではない。さらに、地方議会には懲罰権に対する裁量の余地が認められる。そこで、①目的が重要であり、②手段が目的との関係で効果的で過度でない場合には当該制約は合憲であるといえる。

ウ これを本件についてみる。処分1の目的は不適切な発言への反省を促すことにあるが、間接民主制の下、地域住民の代表である地方議員の活動の健全性が確保されることは地域住民の利益に資するものであり、重要といえる(①充足)。

そして、不適切な発言への制裁として公開の議場で陳謝させることは議員への反省を促す上で効果的であり、陳謝という制裁方法は地方議会の懲罰権の内容(地方自治法135条1項各号参照)として過度の処分であるとはいえない(②充足)。

エ よって、処分1は合憲である。

⑵処分2について

ア Xの主張通り、Xの主張する自由は憲法21条1項によって保障される。また、処分2は上記自由を制約している。

イ Xの主張通り、議員活動の自由は重要といえ、除名という処分はXに重大な不利益を及ぼすものである。他方で、処分2は処分1があった上での再度の処分であり、処分が重くなることもやむを得ないものがある。さらに、地方議会には懲罰権に対する裁量の余地が認められることは前述のとおりである。そこで、処分1の場合と同様の基準で判断する。

ウ 本件についてみる。処分2の目的は議会内部の健全性を確保することにあるが、これも住民の利益に資するものであり重要であるといえる(①充足)。

次に、処分2は処分1に従わないことが議会に対する重大な侮辱であることを理由としている。しかし、朗読を拒否することを議会に対する重大な侮辱という合理的な理由はない。本件発言に際し、Xは一応の根拠に基づき発言していたのであり、本件発言はもっぱらDの評価を貶めることを目的とするような明らかに許されないようなものとはその性質を異にすることからすれば、懲罰権の内容としては陳謝よりも重い出席停止という処分も考えられるところ、処分1に対する不服従への制裁として、議員という身分を剥奪する除名処分は過度の処分であると言わざるを得ない(②不充足)。

エ よって、処分2は違憲である。

以上

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