平成30年(2018年)予備試験刑法答案

武藤遼のプロフィール

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初めまして、武藤遼といいます。 まずは自己紹介をさせていただきます。 僕は今、司法試験の受験指導をしています。大学4年生の時からこの仕事をやっています。 武藤流というブランドで教えてます。僕は今25歳なので、3年近く受験指導をしていることに[…]

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2018年刑法問題

答案

第1 甲の罪責について

1 甲が、A銀行から500万円を払い戻した行為に業務上横領罪(253条)が成立するか。

⑴「業務」とは、社会生活上の地位に基づき、反復継続して行われる事務であって、委託を受けて物を占有することを内容とする事務のことをいう。本件定期預金は、甲が投資会社の発起人として、設立後の事業資金を確保するために行ったものであり、これを解約し払戻しを受ける行為は「業務」にあたる。

⑵次に、横領罪における「占有」とは濫用のおそれのある支配力をいい、事実上の占有のみならず法律上の占有も含まれる。本件では、確かに、乙から預かった500万円は甲名義の定期預金口座に預けられており、預け入れの際に使用した届出印も甲が所持しているため、甲に法律上の占有が認められるとも思える。しかし、定期預金の払戻権限は証書を持っている者が有すると考えるべきであり、証書はVが保管している以上、甲に法律上の占有は認められない。したがって、定期預金の500万円は「自己が占有」するものとはいえない。

⑶よって、同罪は成立しない。

2 では、上記行為に詐欺罪(246条1項)が成立しないか。

⑴まず、「欺」く行為とは、相手方が真実を知っていれば処分行為を行わないような重要な事実を偽ることをいう。甲は、預金証書を有する預金権者でないにも関わらず、預金口座を解約したいといい、証書を紛失したと嘘をついている。定期預金の払戻権者は証書を有している者であり、Cは、甲が預金権者であることを知っていれば預金口座の解約手続を行い、500万円を甲に交付することはなかったといえる。そのため、上記行為は「欺」く行為に当たる。

⑵上記「欺」く行為によって、Cは預金口座の解約手続を行い、500万円を甲に「交付」している。

⑶したがって、同罪が成立する。

3 甲が、乙と「共同」してサバイバルナイフでVを脅し、債権放棄の念書を作成させた行為に強盗利得罪の共同正犯(60条、236条2項)が成立しないか。

⑴まず、上記行為は「暴行又は脅迫」に当たるか。

ア 甲と乙が、Vに対しナイフを向けた後、Vは一旦念書を書くことを拒絶しているが、さらに胸ぐらを掴んでVの喉元という急所にサバイバルナイフの刃先を近づけている。これはナイフの位置が少しでもずれれば命の危険に関わる状態であり、相手方の犯行を抑圧するに足りる程度の暴行又は脅迫といえる。

イ そして、被害者の意思を抑圧して財産上の利益を強取する強盗利得罪の犯罪類型から被害者の処分行為は不要であると解する。もっとも、処分範囲限定のため、「暴行又は脅迫」といえるためには確実かつ具体的な財産的利益の移転に向けられていることが必要であると解する。甲と乙は、Vに債権放棄の念書を作成させるため、共同して上記行為を行なっており、上記行為は財産上不法の利益に向けられた行為であるといえる。そして、本件念書は「一切の債権債務関係はない」とするものであり、Vに以後500万円の債権の返還請求を無くさせるものである。これは確実かつ具体的な利益の移転に向けられているといえる。

ウ したがって、「暴行又は脅迫」に当たる。

⑵そして、Vが本件念書を作成したことにより、「財産上不法の利益」を得たといえる。

⑶よって、同罪が成立する。

4 次に、乙がVの財布から10万円を抜き取った行為に強盗罪の共同正犯(60条、236条)が成立しないか。

⑴本件では、甲と乙はVを脅して本件念書を作成させることについて意思の合致があり、特に甲は乙に対し、Vに手を出さないように念を押すなど、Vに対し暴行又は脅迫によって本件念書を作成させる以外の行為をさせる意思がなかった。そのため、乙の上記行為について共謀の射程は及ばない。

⑵よって、甲に同罪の共同正犯は成立しない。

5 罪数

以上より、詐欺罪、強盗罪の共同正犯が成立し、これらは社会通念上別個の行為であるから、併合罪(45条前段)となる。甲は、かかる罪責を負う。

第2 乙の罪責について

1 まず、甲とともにサバイバルナイフでVを脅し、債権放棄の念書を作成させた行為に強盗利得罪の共同正犯(60条、236条2項)が成立する。

2 次に、乙がV所有の財布から10万円を抜き取った行為に強盗罪(236条1項)が成立しないか。

⑴同罪における「暴行又は脅迫」とは、財物強取に向けられた相手方の犯行を抑圧する程度の暴行又は脅迫が必要となるが、犯行を抑圧させる程度に至らないものであっても、一度相手方の犯行を抑圧する程度の暴行又は脅迫がおこなわれた後であれば、その犯行抑圧状態を継続させる程度のものであっても「暴行又は脅迫」にあたると解する。乙がサバイバルナイフをVの喉元に突きつけ、「さっさと書け」と迫ったことにより、Vは強度の犯行抑圧状態に陥ったものと判断できる。そうすると、たとえ乙がすでにナイフを手放していたとしても迷惑料として財布から10万円を取り上げようとする行為自体が犯行抑圧状態を継続させる暴行又は脅迫であるといえ、「暴行又は脅迫」にあたる。

⑵上記行為により、乙は10万円という「財物」を「強取」している。

⑶よって、同罪が成立する。

3 罪数

以上より、強盗利得罪の共同正犯と、強盗罪が成立し、これらは被害者を共通にし、時間的場所的に近接した犯行であるから包括一罪の関係に立つ。乙は、かかる罪責を負う。

以上

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