国際私法平成30年(2018年)司法試験第2問答案

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初めまして、武藤遼といいます。 まずは自己紹介をさせていただきます。 僕は今、司法試験の受験指導をしています。大学4年生の時からこの仕事をやっています。 武藤流というブランドで教えてます。僕は今25歳なので、3年近く受験指導をしていることに[…]

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2018年司法試験国際私法

答案

第1 設問1小問1について

1 本件において日本の裁判所に管轄権が認められるかは、民事訴訟法3条の2以下により判断される。

⑴ まず、3条の2第1項は、被告の応訴の負担を考慮して、被告の住所が日本にある場合は、日本に管轄権を認めている。しかし、Yは甲国に在住しているため、同項の要件を満たさない。

⑵ 次に、Yは甲国に営業所を有する画商であるから「事業者」(3条の4第1項)に該当する。そして、Xは甲国に渡航した際、個人としてYから本件絵画を買い受けているから「消費者」に該当する。そのため、消費者の裁判所へのアクセスの保障を認める同項が適用される。Xは日本に在住しているから、同項により日本の裁判所に管轄権が認められる。

⑶ もっとも、本件に「特別の事情」(3条の9)がある場合、Xの訴えは却下されることになる。そこで検討するに、Yは甲国に在住しており、営業所も甲国にあり、日本に営業所及び財産を有しない。そして、日本に渡航歴もない。そのため、日本で訴訟を行う場合、Yの応訴の負担は大きい。また、Xは甲国で本件絵画を購入しており、本件絵画を偽物であると判断した専門家も甲国に在住している。そのため、証拠の所在地の観点からしても甲国が適切といえる。そうだとすれば、本件においては甲国において審理及び裁判をすることが当事者間の衡平に適い、また適切かつ迅速な審理の実現に資する。そのため、本件には「特別の事情」があるといえる。

2 したがって、本件の訴えに関して、日本の裁判所は国際裁判管轄権を有しない。

第2 設問1小問2について

1 本件売買契約の有効性は、「法律行為の成立及び効力」の問題として法の適用に関する通則法(以下、「法」という。)7条にしたがって判断される。

  同条は、当事者自治の観点から「当事者が当該法律行為の当時に選択した地」を連結点としている。しかし、本件契約では、国際裁判管轄権及び準拠法に関する定めはなく、特定の国の法の条文への言及もなく、特定の国の法に特有な法律用語も使われていない。そのため、当事者間での明示的な合意はおろか、黙示的な合意も存在しないといえる。

2 もっとも、前述の通り、Xは「消費者」でありYは「事業者」であるから、本件売買契約は消費者契約に該当する。そのため、法11条により準拠法を決定できるか検討する。

⑴ 同条2項は、法7条による準拠法の選択がない場合、消費者の常居所地法を準拠法と定める。その趣旨は、情報力・交渉力の点で弱者である消費者を保護する点にある。Xは日本に在住しているから、その常居所は日本である。

⑵ もっとも、法11条6項各号の規定に該当する場合には、同条2項は適用されない。本件において、「消費者」であるXはその常居所と異なる甲国で本件売買契約を行っており、「消費者の常居所地と法を異にする地に所在した場合であって、消費者が当該事業所の所在地と法を同じくする地に赴いて当該消費者契約を締結したとき」(同項1号本文)に該当する。そして、Xは本件売買契約について「勧誘」(同号ただし書)を受けていない。

⑶ そのため、本件売買契約の準拠法は法8条によって決定される。同条は、法律行為の成立及び効力について、当該法律行為当時において最も密接な関係がある地(最密接関係地)を連結点とする(8条1項)。その趣旨は、準拠法決定の必要性及び当事者の予測可能性の観点から中立的な法を定める点にある。

ア 最密接関係地の決定にあたり、当事者の一方的が「特徴的な給付」を行う場合は、当該当事者の常居所地が最密接関係地と推定される(同条2項)。「特徴的な給付」とは、当該契約を特徴付ける契約をいうところ、双務契約の場合は金銭給付の反対給付が「特徴的な給付」に該当する。本件契約は双務契約であるところ、金銭給付の反対給付はYによる本件絵画の給付である。そして、Yは甲国に在住し、かつ甲国に営業所を有しているから、Xの常居所は甲国であるといえ、本件では甲国が最密接関係地と推定される。

イ そして、Xが日本に営業所及び財産を有していないことや本件売買契約が甲国で締結されていること、本件絵画の真偽を判定できる専門家が甲国に在住していることからすれば、上記の推定を覆す事情は本件に存在しない。

ウ したがって、本件売買契約の準拠法は甲国法となる。

第3 設問2について

1 本件訴えにおいては、本件絵画の所有権の帰属が争われているところ、本件絵画の所有権がYにあるか否かは法13条2項によって判断される。

⑴ 同項は、その原因となる事実が完成した当時におけるその目的物の所在地を連結点とする。その趣旨は、ある時点で物権変動が成立すればその後に所在地の変更があった場合にも存続を認めるべきであるし、その時点の所在地が最も密接な関係を保つと考えられる点にある。

⑵ これを本件についてみるに、本件売買契約成立当時、本件絵画は甲国に所在していたため、甲国法が準拠法となるとも思える。しかし、甲国民法には、当事者間における動産の所有権の移転には売買契約だけではなくその引渡しを必要とする規定がある。本件絵画は、日本に向けて公海上を運行中の船舶に積載されているから、本件絵画の引渡しは行われていない。そうだとすれば、甲国法上本件絵画の所有権は移転しておらず、法13条2項にいう「原因となる事実が完成」していないことになる。

⑶ したがって、同項によっては準拠法を決定することができない。

2 それでは、本件絵画の所有権の移転に関する準拠法をいかにして決定すべきか。

⑴ 前述の通り、本件絵画は日本に向けて公海上を運行中の船舶に積載されているところ、移動中の物については、その物に関する物権の効果が仕向地への到着を待って実現される点を考慮すれば、実際の所在地よりも、仕向地と目的物とに密接な関係があるといえる。そのため、仕向地法を準拠法とすべきであると解する。

⑵ これを本件についてみる。本件絵画は日本を仕向地としている。日本法によれば、物権の移転は当事者の意思表示のみによって成立する(民法176条)。本件では、本件売買契約時にYは所有権移転の意思表示をしたといえる。しかし、本件売買契約当時、本件絵画は日本に向けて移動中ではなかったのであるから、本件売買契約当時におけるYの意思表示を考慮することはできない。本件絵画が日本に向けて移動して以降は、本件絵画に関して所有権移転に関するYの意思表示はなかった。そのため、日本法を準拠法とすることはできない。

⑶ したがって、上記の検討によっても準拠法を決定することはできない。

3 以上の検討からすれば、本件絵画についてYからXへの所有権の移転を認める準拠法は存在しないことになる。よって、Yの請求は認容される。

以上

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