平成28年(2016年)予備試験商法答案

武藤遼のプロフィール

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初めまして、武藤遼といいます。 まずは自己紹介をさせていただきます。 僕は今、司法試験の受験指導をしています。大学4年生の時からこの仕事をやっています。 武藤流というブランドで教えてます。僕は今25歳なので、3年近く受験指導をしていることに[…]

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2016年商法問題

答案

第1 設問1について

1 本件手形は甲社の経理事務員であるCが作成したものであるところ、Cは甲社の手形を作成する権限なく、代表権限を有するAに無断でAの名義を使用し、本件手形を作成しており、これは偽造にあたる。そのため、被偽造者であるAは手形債務を負担せず、本件手形を裏書により譲り受けた丙者が満期に適法な支払提示をしたとしても、甲社は手形金支払請求を拒むことができるのが原則である。

2 もっとも、これでは本件手形が有効に成立しているとして本件手形を譲り受けた丙社の取引の安全が害され、妥当でない。本件では、Aの追認はないところ、丙社は手形債権取得が認められないか。民法の表見代理規定の適用の可否が問題となる。

⑴この点について、偽造の場合は顕名がない以上、表見代理規定を直接適用できない。しかし、表見代理規定の趣旨は虚偽の外観の作出について帰責性ある本人の犠牲の下に第三者の信頼を保護するところにあるところ、偽造の場合も無権限者による本人名義の手形行為である点では差異はなく、第三者の信頼保護という表見代理規定の趣旨が妥当する。そこで、偽造の場合にも、表見代理規定が類推適用されると解する。

また、取引安全の見地から、「第三者」は直接の相手方のみならず、転得者も含むと解する。

⑵これを本件についてみる。Cは、契約時に甲社の代表社印等を用いており、Cが手形を作成する正当な権限を有すると信じるにつき「正当な理由」(民法110条)があるといえる。そして、丙社は本件手形の転得者であるが、上記の通り「第三者」に当たる。

⑶したがって、丙社は手形債権を取得する。

3 よって、甲社は、本件手形に係る手形金支払請求を拒むことはできない。

第2 設問2について

1 吸収合併の効力発生前について

⑴Dは本件株主総会決議の取消の訴え(831条1項)を提起するという手段をとることが考えられる。

ア まず、Dは「株主」にあたるか。

(ア)株主権は共益権であるところ、自益権も共益権も相続により承継されると解する。そのため、Aの死亡により、C、D、EはAの株式を共同相続する(民法898条)。そして、株主権は株主という地位に関するものであり、金銭債権と同視することはできないから、遺産分割協議がなされない場合、株主権は相続人の準共有(民法264条本文)になる。

(イ)そのため、株主権の権利行使に当たっては会社に権利通知者の選定通知を行う必要があるところ(会社法106条本文)、Cらはこれを行っていない。そうすると、Cが株主権を行使することは不可能であり、Cの権利行使を認めなければ本件株主総会は決議の定足数を満たさないことになる(309条1項)。それにもかかわらず、Cの権利行使を認めながら、Dの株主権の行使を認めないことは矛盾挙動であり、信義則(民法1条2項)上許されない。そこで、この場合、「株主」に当たると解する。

(ウ) したがって、Dは「株主」に当たる。

イ では、本件株主総会決議の「招集手続」が「法令」に「違反」するといえるか(同項1号)。

(ア)本件では甲社の代表権を有するBがCの議決権行使に同意しているため、Cの権利行使は認められるとも思える(106条但し書き)。しかし、同条本文は民法264条但し書きにいう「特別の定め」に当たると解されるところ、同条但し書きは会社の同意がある場合には同条本文の規定が適用されないことを定めたものと解する。そうだとすれば、本件においてCは会社の同意がある場合であっても、民法264条本文の要件を満たす必要があるところ、株主権の行使は管理行為にあたり、共有者の過半数の同意が必要となるが(民法252条本文)、CはDおよびEに無断で権利行使を行っており、同意があるとは言えず、民法264条本文に定める要件を満たしていない。そして、前述のとおり、D及びEは「株主」に当たるから、BがD及びEに招集通知を送らなかったことは会社法201条3項に違反する。

(イ)したがって、831条1項1号違反がある。

ウ そして、D及びEに招集通知を書いたという瑕疵は「重大」であり、「決議に影響」を及ぼすものであるといえるから、裁量棄却(831条2項)もされない。

エ よって、Dは決議の日から「3か月」以内に上記訴えを提起するという方法をとることができる。

⑵ 次に、「株主」と認められるDは、自己の意思に反する吸収合併により「不利益を受ける恐れがある」として、本件吸収合併の差し止めの訴え(784条の2)を提起することはできないか。

ア 本件吸収合併を決議した本件株主総会にはその招集手続に瑕疵があるから、有効な株主総会の決議があったとはいえず(783条1項、309条2項12号)、吸収合併が「法令」に「違反」するといえる(784条の2第1号)。

イ したがって、上記訴えを提起するという方法をとることができる。

2 吸収合併の効力発生後について

⑴本件吸収合併の効力が生じた後については、Dは本件株主総会の決議取消の訴えと本件吸収合併の無効の訴え(828条1項7号、原告適格につき同条2項7号)を提起するという手段をとることが考えられる。

ア この点、提訴期間や提訴権者を制限して法的安定を図った無効の訴えの制度趣旨にかんがみ、吸収合併の効力が生じた後は無効の訴えによってのみその効力を争うことができると解する。

イ したがって、本件吸収合併の無効の訴えを提起することが考えられる。

⑵では、その訴えを提起できるか。

ア 無効の訴えには無効事由について明文の規定がないが、提訴期間や提訴権者を制限して法的安定を図った制度趣旨から、無効事由は重大な瑕疵に限られると解する。 

そして、本件吸収合併が決議された本件株主総会決議には取消事由(831条1項1号)があり、これは重大な瑕疵に当たるといえるから、かかる事由が無効事由となる。

イ もっとも、株主総会決議の取消事由を無効事由として主張する場合には、株主総会決議取消の訴えの提訴期間を超えてその事由を主張することはできないと解する。

ウ したがって、本件株主総会の決議の日から3か月以内に限り、上記訴えを提起するという手段をとることができる。

                         以上

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