平成28年(2016年)予備試験刑事訴訟法答案

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初めまして、武藤遼といいます。 まずは自己紹介をさせていただきます。 僕は今、司法試験の受験指導をしています。大学4年生の時からこの仕事をやっています。 武藤流というブランドで教えてます。僕は今25歳なので、3年近く受験指導をしていることに[…]

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2016年刑事訴訟法問題

答案

第1 設問1について

1 ①の逮捕及び勾留が適法であるには、逮捕及び勾留についての形式的要件を充足する必要がある。

⑴まず、逮捕は要件を満たすか。

ア 本件では、事件の目撃者であるWが甲の写真を指し示して、目撃した男は甲で間違いないと供述したこと、および甲がV方で盗まれていた彫刻を古美術展に売却していた事実からすれば、甲が「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」があるといえる(199条1項本文)。

イ 次に、本件被疑事実は住居侵入、窃盗、放火であるところ、これらは法定刑が重く重大な犯罪であり、甲に逃亡や罪証隠滅の恐れも否定できず、逮捕の「理由」もあるといえる(同条2項)。

⑵次に、逮捕の場合と同様、「罪を犯したことを疑うに足り相当な理由」があるといえ(60条1項柱書)、勾留の理由も同様にあるといえる(87条参照)。

⑶したがって、形式的要件を満たす。

2 そうだとしても、①の逮捕及び勾留は本件被疑事実についてすでに逮捕及び勾留がなされ、証拠不十分で釈放された後に行われたものである。そのため、上記逮捕及び勾留は再逮捕・再勾留に当たり、許されないのではないか。

⑴そもそも、再逮捕・再勾留とは同一の被疑事実につき、再び逮捕・勾留を行うことをいうところ、厳格な身体拘束期間を定めた法の趣旨(203条以下)から、再逮捕・再勾留は原則として許されないと解する。

もっとも、199条3項及び刑事訴訟規則142条1項8号は一定の場合には再逮捕が行われることを許容した規定であるといえる。そして、199条3項の趣旨は逮捕と釈放による不当な自由侵害を防止することにあるところ、これを上回る合理的必要性がある場合には再逮捕も例外的に認めるべきである。そこで、新証拠の発見や逃亡、罪証隠滅の恐れなどといった新事情があり、先行する逮捕・勾留の不当な蒸し返しに当たらない場合には再逮捕・再勾留が例外的に認められると解する。

⑵これを本件についてみる。本件において、警察官は甲の釈放後も捜査を続けているところ、甲がV方で盗まれた彫刻1点をL県内の古美術店に売却したという新事情が新たに判明している。また、上記のような新事情の発見があるから、先行する逮捕・勾留と同一の事実関係において再度逮捕・勾留に踏み切ったわけではなく、先行する逮捕・勾留の不当な蒸し返しには当たらない。

⑶したがって、例外的に再逮捕・勾留が認められる。

3 よって、①の逮捕及び勾留は適法である。

第2 設問2について

1 ②の判決書謄本(以下、「本件謄本」という)は甲の犯人性の立証のために証拠調べ請求されているところ、犯人性は「罪となるべき事実」(335条1項)であり、刑罰権の存否およびその範囲を確定する事実であるから、その立証には厳格な証明が必要となり、本件謄本に証拠能力が認められることが必要である。そのためには、本件謄本に自然的関連性、法律的関連性が認められ、証拠禁止に当たらない必要がある。

2 まず、自然的関連性とは立証事項を証明するに足りる必要最低限の証明力を有することをいう。本件謄本は本件前科を内容とするところ、本件前科と本件被疑事実はウイスキー瓶にガソリンを入れた手製の火炎瓶を使用するという放火方法や、美術品の彫刻品を盗むという窃盗の目的物について類似性があり、甲の犯人性を立証するに足りる必要最低限の証明力を有するといえる。

3 次に、法律的関連性とは、証拠の証明力の評価を誤らせるような事情のないことをいう。

⑴本件謄本は、公判廷外の供述を内容とし、その内容に真実性が問題となるものであるから、「書面」に当たり、原則として証拠能力が否定される(320条1項)。その趣旨は、供述証拠は知覚、記憶、叙述の過程を経て作成されるところ、そのいずれにも誤りが介在する恐れがあり、裁判官の面前での反対尋問(憲法37条2項前段参照)などによってその正確性を吟味、確認する必要があるが、伝聞証拠はこれらの方法によって正確性を確認できず、その信用性が保障されないことにある。

もっとも、法は反対尋問などに代わる信用性の状況的保障が認められる場合には例外的に証拠能力を認めている(321条以下)。本件謄本は裁判官が作成したものであり、裁判官は「公務員」であるから、323条1項によって、本件謄本は例外的に法律的関連性が認められる。

⑵そうだとしても、本件謄本は本件前科を内容とするところ、このような前科による立証に法律的関連性は認められないのではないか。

ア この点、前科による立証は被告人の犯罪性向といった実証的根拠の乏しい人格的評価につながりやすく、そのために評価を誤らせる恐れがある。また、前科による立証は、当事者が前科の内容に立ち入った攻撃防御を行う必要があるなど、争点を拡散させる恐れがある。そのため、前科による立証は被告人の犯罪性向といった実証的根拠の乏しい人格的評価によって、誤った事実認定に至るおそれがない場合に限り認められると解する。そして、前科を被告人の犯人性の立証に用いる場合には、それが顕著な特徴を有し、起訴にかかる犯罪事実と相当程度類似し、かかる事実によって被告人と犯人との同一性が合理的に推認される場合に認められると解する。

イ これを本件についてみる。本件では、前述のとおり、本件前科と本件被疑事実は放火の方法や窃盗の目的物において類似する。

 しかし、ウイスキー瓶にガソリンを入れた手製の火炎瓶を放火に使用することは放火犯の放火行為として通常想定する域を出ず、放火の方法として顕著な特徴を有するとはいえない。また、美術品の彫刻もそれが一般に家庭にある高価品であることを考えれば、窃盗の目的物として通常想定されるものであり、顕著な特徴を有するとはいえない。そうだとすれば、本件被疑事実と本件前科の類似性から甲が犯人であることを合理的に推認することはできず、甲の悪性格といった実証的根拠に乏しい人格的評価を介して甲の犯人性を推認せざるを得ない。

ウ したがって、本件前科を甲の犯人性の立証に用いることはできない。

⑶よって、本件謄本に法律的関連性は認められず、証拠能力は認められない。

4 以上より、本件謄本を甲が本件公訴事実の犯人であることを立証するために用いることは許されない。

                                     以上

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