平成28年(2016年)予備試験刑事実務基礎答案

武藤遼のプロフィール

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初めまして、武藤遼といいます。 まずは自己紹介をさせていただきます。 僕は今、司法試験の受験指導をしています。大学4年生の時からこの仕事をやっています。 武藤流というブランドで教えてます。僕は今25歳なので、3年近く受験指導をしていることに[…]

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2016年刑事実務基礎問題

答案

第1 設問1について

1 Aの弁護人は、Aに殺意がないと主張すべきである。

2 理由

⑴ 殺意とは、殺人罪(刑法199条)における故意(38条1項本文)であり、故意とは構成要件該当事実の認識・認容をいう。そのため、殺意が認められるためには、行為時において、行為者が、当該行為が人の死という結果発生の現実的危険性を有していることを具体的に認識している必要がある。

⑵ 本件では、Aは拳銃で弾丸3発を発射しており、これは人の死という結果の現実的危険性を有する行為といえる。

しかし、当該行為が殺意を持って行われたと認められるためにはAがVの死という結果が発生することを認識して当該行為を行ったと認められることが必要である。AはVがいた玄関ドアから約3メートル離れた門扉前の路上から拳銃を3発撃っているところ、Aは目を閉じて拳銃を発射している。そうだとすると、Aは被害者たるVの枢要部を狙うことはおろか、発射時にVがいたことすら認識していなかったものといえ、Vの死という結果を認識して当該行為が行われたとはいえない。

また、Aは拳銃の扱いに慣れているとは考えにくいところ、Aは事件の1週間前に聞いた話が原因で乙組の連中を脅そうと考えたわけであり、今回の行動は入念な計画に基づいたものではなかった。さらに、約3メートルという必ずしも至近距離とは言えない距離からの発射では、確実に銃弾がVに命中するかは定かではないところ、Aは拳銃を発射した後Vの死亡を確かめたり、追撃に及ぶなど事後的な行動をとっていない。Aに殺意があるならば、このような行為を行ったはずであるから、Aに殺意があったとは考えられない。

⑶ したがって、Aに殺意は認められない。

3 弁護人は、以上のような事実上の主張をすべきである。

第2 設問2⑴について

1 現場供述とは、立会人の供述を内容とし、その内容の真実性が問題となるものをいう。

2⑴ ㋐の供述は立会人Wの供述を内容とするものであるが、これはなぜこの地点で実況見分を行ったかという動機を示すものにすぎず、その要証事実はWがこの地点を示したことであり、その内容の真実性が問題とならない。したがって、㋐の供述は現場指示にすぎず、現場協供述に当たらない。検察官はこのような意見を述べるべきである。

⑵  ㋑の供述はWの供述を内容とする。しかし、Wの供述はWが直接体験した事実を述べたものであり、そもそも伝聞証拠ではなく、非伝聞に過ぎない。したがって、㋑の供述は現場供述に当たらない。検察官はこのような意見を述べるべきである。

第3 設問2⑵について

1 検察官は証拠③の実況見分調書は伝聞例外に当たり、弁護人の同意がなくても証拠能力に当たると主張するという対応をとることが考えられる。

⑴ 実況見分調書は公判廷外の供述を内容とし、その真実性が問題となるものであるから、「書面」にあたり、Aの弁護人が「同意」(刑事訴訟法326条1項)をしない以上、伝聞証拠として、原則として証拠能力が否定される(320条1項)。

しかし、法は証拠とする必要性が高く、信用の状況的保障があるものについては  例外的に証拠能力を認めている。証拠③は実況見分調書であり、321条3項は直接適用されないが、同項の趣旨は専門的な訓練を受けたものが意識的に記述することで誤りの介在が少ないこと、検証結果は複雑で書面による方が正確であることにある。そして、検証と実況見分は強制処分か任意処分かの違いはあれ、同一の捜査手法で行われるものであるから同項の趣旨が妥当し、同項が類推適用され、作成者の真正作成供述(内容の真正だけでなく名義の真正も含む)によって、証拠能力が認められる。

⑵ そうだとしても、実況見分調書のうち、Wの供述の内容の真正が問題となる現場供述については321条1項3号の要件を満たす必要があるところ、Wは供述不能とはいえず、「供述することができず」とはいえないから、同号の要件を満たさず、証拠能力が認められない。

2 したがって、この場合、検察官はWの証人尋問を行うという対応をとるべきである。

第4 設問3について

1 Aの弁護人は、Aが犯行当時C方にいたという主張を追加することを裁判所及び検察官に対し明らかにすべきである(316条の22第1号)。

2 そして、かかる主張をするために用いる証拠の取り調べの請求を追加する必要があるときは、速やかにその証拠の取り調べを請求しなければならない(同条2項)。そして、請求した証拠について、速やかに検察官に対し開示をしなければならない(同条4項、316条の18)。

第5 設問4⑴について

1 証拠⑪のメモ帳の記載は筆跡鑑定を行っていないため、Aが書いたものかは不明だが、メモ帳がA方から捜索の結果差し押さえられたものであること、および表紙の裏にAとCが写っている写真シールが添付されていることを考えると、このメモ帳はAの物であるということが推認される。そうだとすれば、Aがこのメモ帳を所持していたという事実がAが犯行にかかわったことを推認させるから、かかる事実が間接事実となって、Aの犯人性を直接推認させることとなる。

2 検察官の推認過程は上記のようなものと考えられる。

第6 設問4⑵について

1 証拠⑬により、メモ帳の記載はAが書いたものと考えられる。そうだとすれば、かかるメモ帳の記載は当時Aがそのような意図をもっていたことを示すものであり、かかるメモの記載の事実はAの故意を推認させる間接事実となり、かかるAの故意という事実が間接事実となってAの犯人性を推認させるという違いが生じる。

2 したがって、推認過程にAの故意という事情が介在するか否かという違いが生じる。

第7 設問5⑴について

1 弁護人はAの犯人性を争っており、Aの犯行への関与を争っていると考えられるところ、検察官の質問はBがAを車に乗せて運転していたという尋問者の求める答えが尋問中に現れている質問であり、誘導尋問に当たる。そして、誘導尋問は原則として許されない(刑事訴訟規則199条の3第3項柱書)ところ、同項各号該当事由があれば例外的に誘導尋問も許されるが、本件では該当事由はなく、許されない誘導尋問である。

2 したがって、裁判所は弁護人の異議に理由があるとして、検察官の質問を排斥する旨の決定をするべきである(205条の6第1項)。

第8 設問5⑵について

1 証人尋問中の書面の提示については、199条の10、199条の11に規定されている。本件では、検察官は書面の同一性を示すために証拠⑫を示しているのではなく、Cが証拠⑫に署名押印をしたということの記憶を喚起するために書面を提示しているところ、このような書面の提示は証人の記憶に不当な影響を及ぼす恐れがあるから、裁判長の許可が必要とされる(199条の11第1項)。

2 したがって、裁判長の許可を求めることなく、本件のような調書の一部を示すことは検察官の反対尋問において許されない。

                                  以上

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