平成27年(2015年)予備試験民事訴訟法答案

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初めまして、武藤遼といいます。 まずは自己紹介をさせていただきます。 僕は今、司法試験の受験指導をしています。大学4年生の時からこの仕事をやっています。 武藤流というブランドで教えてます。僕は今25歳なので、3年近く受験指導をしていることに[…]

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2015年民法問題

答案

1 判例の考え方の理論的な理由

 不法行為に基づく損害賠償請求において、財産的損害と精神的損害とでは保護法益が異なると考え、訴訟物を2つとする考え方もあるが、財産的損害と精神的損害を一つの訴訟物として扱うのが判例の考え方である。その理由は以下の2つである。

1つ目は、一つの不法行為によって発生した損害は一つであり、その被害の内訳が財産的損害と精神的損害に分けられているだけで、両損害は同一の原因によるものといえることにある。

2つ目は、精神的損害である慰謝料は、財産的損害の調整として用いられるということからすれば、2つの損害は結局は同質のものと考えることができることにある。

2 そのように考えることの利点

⑴紛争の一回的解決に資する点

ア 訴訟物を2つとみた場合、原告はそれぞれの訴訟物について訴訟を提起しなければならないため、2回訴訟を提起することが必要である。そうすると、それぞれの訴訟が独立に行われるということになるため、訴訟不経済であるし、判決が矛盾するおそれがある。

イ これに対し、訴訟物を1つとみると、明示的一部請求をしない限り、残部請求は認められない。明示的一部請求の場合、訴訟物は請求した一部のみに限定されるが、過失相殺は損害額の全額を基準になされ、残額が請求額を超える場合は全額が認容され、残額が請求額を超えない場合は残額が認容され、その判断の拘束力は残部請求にも及ぶ。そのため再度審理する必要がないという点で紛争の一回的解決を図ることができ、訴訟経済に資するうえ、判決が矛盾するおそれがないという利点がある。

⑵裁判所の損害額認定が柔軟にできる点

ア 訴訟物を2つとみた場合、例えば財産的損害について100万円、精神的損害について400万円と裁判所が認定した場合であっても、主張されている損害額がそれぞれ700万円と300万円であるため、主張額を上限として合計400万円と認定しなければならなくなる。このように、訴訟物を2つとみると、それぞれの訴訟において主張された損害額を上限として損害額を認定しなければならなくなる。

イ 一方、訴訟物を1つとみた場合、例えば損害額1000万円を上限として財産的損害と精神的損害を総合的に判断することができ、損害額として500万円と認定することができる(248条)。このように、裁判所は2つの損害の合計額の範囲内で総合的に判断し、損害額を柔軟に認定できることになるという利点がある。

第2 設問2

1 弁護士Aが提起することを選択した明示的一部請求について法的性質と過失相殺の扱いについて検討する。

⑴まず、法的性質についてみる。一部請求は処分権主義を根拠に認められる。そして、一部請求であることが明示されていれば、被告は同一手続内で残部の不存在確認の反訴を提起することもでき、残部について原告が後訴を提起しても被告にとって不意打ちとなることはなく、被告の防御上の不利益を回避することができる。そのため、一部請求であることが明示されていた場合に限り、訴訟物は明示された一部に限定される。

⑵そして、明示的一部請求する場合の過失相殺については、損害額全額から過失相殺し、残額が請求額を超える場合は全額認容し、残額が請求額を超えない場合は残額を認容すべきである。なぜならば、明示的一部請求の場合、訴訟物は一部だけであるが、原告は損害額全額から自己の過失分を相殺した上で請求が認められると考えた額を一部請求しており、原告の意思に合致するからである。

2 これらを踏まえ、弁護士Aが明示的一部請求を選択した理由を説明する。

⑴まず、1つめの理由は残部請求が可能になることである。

 上記の通り、明示的一部請求の場合、訴訟物は明示した一部に限定され、既判力のその一部にしか及ばない(114条1項)。したがって、残額が請求額を超えて、全額認容された場合は、残額請求が可能となる。本件においては、損害総額1000万円のうち、3割過失相殺して700万円請求しているが、700万円以上の損害が認容された場合、その後の残部請求を可能にするため、明示的一部請求という手段を選択したと考えられる。

⑵2つめの理由は訴額を抑えられることである。

 上記の通り、過失相殺される分については訴訟物にしなかったとしても後訴において残額請求することが可能であるため、全額請求したのと同様の効果がある。それを少ない訴額で実現できるという点で利点があるといえる。

3 以上のことから、弁護士Aは700万円の明示的一部請求という手段を選択したと考えられる。

以上

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