平成27年(2015年)予備試験民事実務基礎答案
武藤遼のプロフィール
初めまして、武藤遼といいます。 まずは自己紹介をさせていただきます。 僕は今、司法試験の受験指導をしています。大学4年生の時からこの仕事をやっています。 武藤流というブランドで教えてます。僕は今25歳なので、3年近く受験指導をしていることに[…]
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答案
第1 設問1について
1 小問⑴について
被告は、原告に対し、本件土地について、平成26年9月1日本件土地の売買契約を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
被告は、原告に対し、本件土地を引き渡せ。
2 小問⑵について
⑴本件訴訟は、本件土地の売買契約に基づく所有権移転登記請求権及び引渡請求権を訴訟物とするものである。本件は、AがYの代理人としてXと同契約を締結しているところ、上記請求を基礎付けるためには、かかる契約がYに効果帰属することを主張する必要がある。
ア まず、代理人による契約の効果が本人に有効に帰属するためには、代理人が相手方との間で当該契約を行うことが必要である(民法99条1項、代理人と相手方との法律行為)。これが、①の事実にあたる。
イ 次に、代理人を通じた売買契約の効果が本人に有効に帰属するためには、代理人が法律行為を行う際に、それが本人のためである旨を明示する必要がある(同項、顕名)。これが、②の事実にあたる。
ウ さらに、代理人を通じた売買契約の効果が本人に有効に効果帰属するためには、代理人の行なった行為が本人に与えられた代理権の権限の範囲内でなければならない。そして、当該契約の前に代理権を与えられていなければ、当該行為は代理行為として有効にならないから、代理権の授与は相手方との法律行為に先立って行われている必要がある。これが、③の事実にあたる。
⑵以上より、弁護士Pは、本件訴状の請求を基礎付ける理由として、①から③の事実を記載した。
第2 設問2について
1 小問⑴について
⑴裁判所は、Ⅰの事実のみをもって、本件訴訟における抗弁と扱うべきでない。
⑵理由は、以下の通りである。
ア 抗弁とは、請求原因と両立し、請求原因から発生する法律効果を障害、消滅、阻止する事実をいう。
イ これを本件についてみる。弁護士Qは、Ⅰの事実により、本件売買契約がAの無権代理行為であると主張している。具体的には、Yは、本件土地を280万円以上で売却する権限を授与したというのであり、250万円で本件土地を売却したことは当該契約に先立って授与した代理権の範囲外であると主張している。これは、本件訴状の③の事実と両立しない事実である。そうだとすれば、Ⅰの事実は抗弁ではなく、否認にあたる。
ウ したがって、上記結論が導かれる。
2 小問⑵について
⑴裁判所は、Ⅱの事実のみをもって、本件訴訟における抗弁と扱うべきでない。
⑵理由は、以下の通りである。
ア Ⅱの事実が抗弁にあたるかは、Ⅰの事実と同様の基準で判断するに、弁護士Qは、Ⅱの事実により、Yが本件売買契約を解除したと主張している。これは、本件売買契約の成立を前提としたうえで、Xが代金を支払わなかったという債務不履行を理由とするものである。債務不履行解除(541条)の主張は、本件訴状の請求原因事実と両立し、請求原因から発生する効果を障害するものといえるから、抗弁にあたる。
イ しかし、本件売買契約は双務契約であるところ、Yが自らの債務を履行しない間は、Xに同時履行の抗弁権(533条)が存在する。そのため、債務不履行解除の主張をするためには、Yが自らの債務を履行したことを示し、同抗弁権を奪う必要があるところ、Ⅱの事実中にこのような主張は存在しない。そうだとすれば、Ⅱの事実の主張のみをもって、上記抗弁の要件事実が示されているとはいえない。
ウ したがって、上記結論が導かれる。
第3 設問3について
1 小問⑴について
⑴裁判所は、本件売買契約書をAが作成したと認めることができる。
⑵理由は、以下の通りである。
ア まず、Qは本件売買契約書の成立の真正を認めているところ、これが裁判上の自白にあたれば、裁判所はYの自白に拘束され、本件売買契約書をAが作成したと認めなければならない(民事訴訟法179条)。しかし、文書の成立の真正は、文書の形式的証拠力に関する補助事実であるところ、その実質的証拠力の判断が裁判官の自由な心証に委ねられている(247条)以上、前提となる形式的証拠力の判断も裁判官の自由な心証に委ねるべきである。そこで、補助事実に関して裁判上の自白は成立しないと解する。したがって、本件売買契約書の成立の真正について、裁判上の自白は成立しない。
イ そうだとすると、本件売買契約書をAが作成したと認めるかどうかは、裁判官の自由な心証に委ねられることになる。本件では、Yが、かつてAに実印を預けたという事実がある。印章を重用する我が国の慣習から、自己の印章をみだりに他人に預託することはないといえ、預けた場合は、勝手に使われることも覚悟しなければならない。そうすると、AがYに無断で勝手に押印をして売買契約書を作成することがありうるといえる。
ウ したがって、上記結論が導かれる。
2 小問⑵について
⑴本件売買契約の代金額について、XとYは9月1日までに合意に至っていなかった。そして、9月1日の交渉時、AはYの実印を押印済みの本件売買契約書を持参している。同契約書は、実印の押印はあったものの、金額欄と日付欄は空欄であった。上記の通り、実印は通常他人が用いることはできないから、契約書に実印があったということは、本件土地の売買についてYはAに代理権を授与していたといえる。そして、金額欄が空欄であるということは、売買契約についてAに裁量を与えていたものといえる。そうだとすれば、250万円で本件土地を売買することについても、Yは承諾していたといえる。
⑵次に、Yは、自宅にて鍵付きの金庫に実印を入れて厳重に保管しており、Aが持ち出すことは不可能だと述べている。Yは、Aに対し、平成26年8月頃、別の取引のために実印を預けたというが、上記の保管態様からすると、YがAに実印を預けることは考えにくい。さらに、Yのいう別の取引に関する契約書につき、Yは裁判所に提出できないという。そうだとすれば、Aが勝手に押印したとする主張は信頼性に欠ける。
⑶よって、Yが、Aに対し、平成26年9月1日までに、本件土地を250万円で売却することを承諾した事実が認められる。
第4 設問4について
1 まず、Pは、Yについて「虚偽の弁解をしている」などと断定し、事実に基づくことなくYの言い分が嘘であると一方的に断じている。これは、Pにつき、真実を重んじるべき姿勢と抵触する軽率な言動であり、真実義務と抵触する(弁護士職務基本規程5条)。
2 また、Pは、Yの勤務先に、YがあたかもXを騙した旨の通知を送っている。これは、相手方当事者Yの名誉を毀損する行為であり、6条と抵触する。
3 さらに、Pは、Yの代理人Qに無断で、Yに本件通知書を贈り、Yとの交渉を試みた。かかる事実は、52条に抵触する。
4 Pの行為には、弁護士倫理上、以上のような問題点がある。
以上
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