平成26年(2014年)予備試験商法答案

武藤遼のプロフィール

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初めまして、武藤遼といいます。 まずは自己紹介をさせていただきます。 僕は今、司法試験の受験指導をしています。大学4年生の時からこの仕事をやっています。 武藤流というブランドで教えてます。僕は今25歳なので、3年近く受験指導をしていることに[…]

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2014年商法問題

答案

第1 設問1について

1 Cは、X社のY社からの借入れ、(以下「本件借入れ」という。)は直接取引(356条1項2号)及び「多額の借財」(362条4項2号)に当たるとこと、法律上必要とされる取締役会決議(365条1項、362条4項柱書)を欠くとして、本件借入れの無効を主張していると考えられる。

2 まず、本件借入れが直接取引に当たるか。

⑴ この点について、取締役が契約当事者とはならない会社と当該取締役の利益が相反する取引は間接取引(356条1項3号)として規制されるため、直接取引の規制対象とする必要はない。そこで、「自己又は第三者のために」とは自己又は第三者の名義においてを意味すると解する。

⑵ これを本件についてみる。BはY社の代表権を有しないから、BがY社名義で本件借入れを行ったとはいえず、「第三者のために」本件借入れを行ったとはいえない。また、5億円のY社貸付金の原資はBがY社に貸し付けた5億円であるが、金利が異なる以上、実質的にBがX社に5億円を貸し付けたとも考えられない。もっとも、BはY社の創業者であるとともに、Y社発行済株式の90%を有するため、Y社の経営に強い影響を及ぼす支配株主といえ、BとY社を実質的に同視できる。そのため、Bが「自己……のため」にしたといえる。

⑶ したがって、本件借入れは直接取引に当たる。

3 また、本件借入れの額は5億円と高額であるから、「多額の借財」に当たるといえる。

4 そうすると、本件借入れについて取締役会において「重要な事実」を開示するとともに、その承認を受ける必要がある(356条1項柱書、365条1項、362条4項柱書)。

⑴ この点について、取締役会決議の無効事由についての明文はない。そこで、法の一般原則により、手続き上の瑕疵がある場合には無効となると解する。もっとも、当該瑕疵がなくとも決議の結果に影響がなかったといえる特段の事情がある場合には、例外的に無効とならないと考える。

⑵ これを本件についてみる。まず、自己のために本件借入れを行ったBは、本件借入れについて、X社に対して負う忠実義務(355条)違反をもたらすおそれのある、会社の利益と衝突する個人的利害関係を有するため、「特別の利害関係を有する取締役」(369条2項)に当たり、本件借入れに係る取締役会決議で議決権を行使できないところ、Bは取締役会において議決権を行使しており、決議方法に瑕疵がある。もっとも、Bを除いたとしても、C以外の3名の取締役の賛成で決議は成立する(369条1項)から、かかる瑕疵がなくとも決議の結果に影響がなかったといえる。

   次に、Bは本件借入れの原資や貸付の金利について説明しておらず、本件借入れを承認すべきかの判断を可能とするのに必要な「重要な事実」(356条1項柱書)を開示していないという瑕疵がある。そして、これらの事実を開示すれば他の取締役が本件借入れの危険性を知って反対し、決議が否決された可能性があったから、決議の結果に影響がなかったとはいえない。

⑶ したがって、「多額の借財」に関する取締役会決議は有効であるが、直接取引に関する取締役会決議は無効であり、本件借入れは、法律上必要な取締役会決議を欠くといえる。

5 では、取締役会決議を欠いたことにより本件借入れは無効となるか。

⑴ この点について、取締役が契約の当事者となる直接取引については取引安全を図る必要がないから、承認を欠く場合には、絶対的に無効になると解する。

⑵ したがって、本件借入れは無効となる。

6    よって、Cの上記主張は妥当である。

第2    設問2について

1 X社の「株主」(828条2項2号)であるBは、B社(834条2号)に対して、新株発行無効の訴え(828条1項2号)を提起し、X社のZ社に対する募集株式の発行(以下「本件発行」という。)が無効であると主張していると考えられる。かかる主張は認められるか。

⑴ 新株発行無効の訴えの無効事由については、明文の規定がないが、法令又は定款の規定に違反した場合の全てを無効事由とすると、新株主や会社債権者の取引の安全を害するので無効事由は重大な法令・定款違反の場合に限られると解する。

⑵ そこで、無効事由を検討する。

ア 本件募集株式の発行は、募集事項の決定時及び新株発行時のX社株式価値の50パーセント以下の額で行われており、これは「特に有利な金額」(有利発行、199条3項)による発行にあたらないか。

(ア)この点について、「特に有利な金額」とは、公正価額と比較して低い価額をいうと解する。そして、199条3項の趣旨は、既存株主に経済的損失を与えないという点にあることから、公正価額とは、資金調達の目的が達せられる限度で既存株主にとって最も有利な価額をいうと解する。

(イ)これを本件についてみる。本件の払込金額は1株当たり5000円であるところ、資金調達目的を考慮すれば、市場価格の平均から1割程度引くことはやむを得ない措置といえる。しかし、募集事項の決定時及び新株発行時のX社株式価値の半額以下の価額になると、これは資金調達目的が達せられる限度において既存株主にとって最も有利な価額といえない。そのため、本件発行の発行価額は公正価額と比較して低い金額といえる。

(ウ)したがって、本件の募集株式の発行は「特に有利な金額」による発行にあたる。

イ 「特に有利な金額」により募集株式を発行した場合、株主総会による特別決議が必要になる(210条1項前段。199条2項、309条2項5号)。しかし、本件では、特別決議を経ていない。

ウ では、株主総会の特別決議を欠く有利発行が重大な法令違反といえるか。

この点について、株主総会の特別決議も内部の手続事項であるところ、内部の手続の瑕疵が重大な瑕疵として無効原因にあたるとすると、特定多数の取引の安全が害され不都合である。また、株主には通知、公告が行われており(201条3項、4項)、募集株式発行の差止請求の機会が行われていたため、かかる請求を怠ったという点について株主に落ち度があるため、不利益を受けてもやむを得ない。そこで、株主総会の特別決議を欠く有利発行は、重大な法令違反とはいえないと解する。

⑶ したがって、本件募集株式の発行において無効事由は認められない。

2 よって、Bの主張は妥当でない。

   以上 

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