平成26年(2014年)予備試験刑事訴訟法

武藤遼のプロフィール

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初めまして、武藤遼といいます。 まずは自己紹介をさせていただきます。 僕は今、司法試験の受験指導をしています。大学4年生の時からこの仕事をやっています。 武藤流というブランドで教えてます。僕は今25歳なので、3年近く受験指導をしていることに[…]

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2014年刑事訴訟法問題

答案

第1 本件ICレコーダーに証拠能力が認められるための要件は、①自然的関連性及び②法律的関連性が認められ、③証拠禁止に当たらないことであるが、本件では、②③が問題となる。

第2 ②法律的関連性について

1 本件ICレコーダー(以下「本件IC」とする。)内の甲の供述は、自白に当たるが、これはKが偽計により得たものであるため、「任意になされたものでない疑のある自白」(以下「不任意自白」という。)として、自白法則(憲法38条2項、法319条1項)により証拠能力が否定されないか。

⑴ そもそも、自白法則の趣旨は、不任意自白は、類型的に虚偽のおそれがあるため、これを証拠から排除することで黙秘権を中心とする人権の侵害を防止し、もって人権保障の実効性を担保する点にある。そこで、不任意自白とは、虚偽の自白を誘発する状況の存在または供述の自由を破る違法な圧迫の存在下でなされた自白をいうと考える。

⑵ これを本件についてみる。Kの偽計は、ここだけの話にするとしつつ供述を録音したものにすぎず、自白した場合に刑を軽くするなどといった、被疑者に虚偽自白をさせる強い心理的影響を与えるものではない。そのため、虚偽の自白を誘発する状況は存在しない。また、Kによる不当な圧迫の存在もない。

⑶ したがって、甲の自白は、不任意自白には当たらない。

2 次に、録音過程が機械的であるICレコーダーは、非供述証拠と考えられるが、本件IC内の甲の供述部分は、伝聞証拠(320条1項)に当たり、証拠能力が否定されないか。

⑴ この点について、伝聞証拠とは、公判廷外の供述を内容とする証拠で、要証事実との関係で内容の真実性が問題となるものをいう。これを本件についてみると、「便宜を図っていただきたい。この800万円はそのお礼です。」と言って現金を供与した旨の甲の供述部分は、要証事実である「甲が乙に対し賄賂として現金800万円を供与したこと」との関係でその真実性が問題となる公判廷外供述なので、伝聞証拠に当たる。そのため、甲の同意(326条1項)なき限り、原則として証拠能力が否定される。

⑵ もっとも、本件ICは、被告人甲の供述録取書に類するため、伝聞例外である322条1項の要件を満たすかを検討する。

ア まず、自白たる甲の供述は、「不利益な事実の承認」(同項本文)といえる上、前述のとおり、「任意にされたものでない疑がある」(同項ただし書)とはいえない。

イ 次に、本件ICには甲の「署名若しくは押印」はない。しかし、機械的になされるICレコーダーでの録音には、録取過程の伝聞性がないため、録取過程の伝聞性を払拭するために要求される署名・押印は不要であると解する。

ウ したがって、322条1項の要件を満たす。

⑶ また、甲の供述には、「私に任せておきなさい」という乙の発言も含まれるが、これは上記発言の存在自体が証明されれば、乙が賄賂であることを認識し返還の意思なく現金を受領したことが推認できるといえ、甲が賄賂としての現金を「供与」したことが推認できる。そのため、乙の発言は、上記要証事実との関係で内容の真実性が問題とならないから、伝聞証拠に当たらない。

(4) よって、本件ICは伝聞法則に反しない。

3 そのため、本件I Cには法律的関連性が認められる。

第3 ③証拠禁止にあたらないことについて

1 本件ICは、偽計で得た自白を録音しているため、本件自白が違法収集証拠であるとして、証拠能力が否定されないか。

⑴ そもそも、適正手続、司法の廉潔性及び将来の違法捜査抑制の観点から、①令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、②これを証拠とすることが将来の違法捜査抑制の見地から相当でない場合には、証拠能力を否定するべきであると解する。

⑵ これを本件についてみる。

ア そもそも、対話者との関係では、話者のプライバシーの主要素たる会話内容の秘匿性は放棄されており、重要な権利・利益の制約はない。そのため、本件秘密録音は「強制の処分」(197条1項ただし書)には当たらない。

イ もっとも、任意処分であったとしても、捜査比例の原則(197条1項本文)の下、必要性を考慮し、相当性が認められる場合のみ適法となる。

本件では、確かに、甲の贈賄の嫌疑が高まっていたものの、甲は供述を拒否しており、甲から同意を得てその自白を証拠とするのは不可能であったため、秘密録音の必要性はあったといえる。しかし、本件秘密録音は甲の自白を内容とするものであり、ここだけの話と言われ自白した甲にとって、当該供述の秘匿への期待は特に大きかった。さらに、Kは自白を得るため偽計という不当な手段を用いている。そうだとすると、本件秘密録音は、上記必要性を考慮しても、相当性を逸脱するものといえ、違法である。

ウ そして、偽計により得た自白を録音し証拠化するという本件秘密録音は、適正手続(憲法31条)の精神に反するものであるから、令状主義の精神を没却する重大な違法があるといえる(①充足)。

エ さらに、本件ICの証拠能力を認めると、自白獲得のため今後の捜査において本件と同様の手法が使われるおそれが高い。そのため、本件ICを証拠とするのは将来の違法捜査抑制の見地から相当でない(②充足)。

⑶ したがって、本件ICは違法収集証拠にあたる。

2 以上から、本件ICの証拠能力は否定される。                                                        以上 

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