平成25年(2013年)予備試験刑事訴訟法答案

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初めまして、武藤遼といいます。 まずは自己紹介をさせていただきます。 僕は今、司法試験の受験指導をしています。大学4年生の時からこの仕事をやっています。 武藤流というブランドで教えてます。僕は今25歳なので、3年近く受験指導をしていることに[…]

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2013年刑事訴訟法問題

答案

第1 設問1について

実行行為者が誰であるかが訴因の特定(256条3項)に不可欠な事項であれば、裁判長は検察官に求釈明(刑事訴訟規則208条1項)を行わなければならない。そこで、実行行為者が誰であるかが訴因の特定に不可欠な事項に当たるかが問題となる。

1 この点について、「罪となるべき事実」(256条3項)とは、特定の構成要件に該当する具体的事実をいうので、訴因が特定されているといえるためには、被告人の行為が①特定の構成要件に該当するかを判定できる程度の具体的事実が明らかなことが必要である。また、訴因は、裁判所に対し審判対象を特定する機能と被告人の防御権を確保する機能を有しているところ、前者が訴因の第一次的機能であると解する。そこで、訴因が特定されているといえるためには、②他の犯罪事実と識別できることも必要であると解する。

2 これを本件についてみる。共同正犯においては一部実行全部責任が課せられるため(刑法60条)、本件の実行行為者が甲であるか乙であるかにかかわらず、傷害罪(同204条)の共同正犯が成立する。そうだとすると、実行行為者が誰であるかは傷害罪の共同正犯の構成要件要素ではなく、本件の訴因は、実行行為者の明示がなくとも、特定の構成要件に該当するかを判定する程度の具体的事実が明らかであるといえる(①)。また、実行行為の日時・場所・方法や被害者等が特定されている以上、本件の訴因は他の犯罪事実との識別が可能である(②)。

3 したがって、実行行為者が誰であるかは、訴因の特定に不可欠な事項には当たらず、裁判長に求釈明を行う義務があるわけではない。もっとも、被告人の防御の機会を保障する観点から、裁判長は求釈明を行うべきである。

 第2 設問2について

  1 判決の内容について

裁判所は、実行行為者を「甲乙は乙あるいはその両名」という択一的な認定をして有罪判決を言い渡そうとしているところ、かかる認定は、「罪となるべき事実」を示しておらず、法335条1項に反し、許されないのではないか。

⑴ この点について、「罪となるべき事実」とは、構成要件に該当する具体的事実をいう。そこで、「罪となるべき事実」の判示の程度は、構成要件に該当するか否かを判定するに足りる程度に具体的であれば足りると解する。

⑵ これを本件についてみる。共同正犯においては、共謀が認められ、それに基づく実行行為が行われれば、実行行為を担当しなかった者についても共同正犯となる。そのため、実行行為者の認定が択一的でも、甲と乙の共謀が認定されている以上、本件の判決は傷害罪の共同正犯の構成要件に該当するか否かを判定するに足りる程度に具体的である。

⑶ したがって、上記認定は335条1項に反せず、実行行為者を「甲乙は乙あるいはその両名」と認定して有罪の判決をすることは許される。

2 判決に至る手続について

⑴ 本件において、「実行行為者は乙のみである。」との検察官の釈明にもかかわらず、裁判所は実行行為者を「甲又は乙あるいはその両名」と認定しようとしている。訴因変更手続を経ずにこのような認定をすることは不告不理の原則(378条3号後段)に反し許されないのではないか。

ア この点について、検察官が釈明した事項が常に訴因の内容になるとすると、訴因に関し、厳格な手続でその内容を確定しようとした法の趣旨に反する。そのため、検察官の釈明事項であっても、訴因の特定に不可欠ではない事項については訴因の内容にはならないと解する。

イ これを本件についてみる。前述のとおり、実行行為者が誰であるかは訴因の特定にとって不可欠の事項ではない。

ウ したがって、実行行為者についての検察官の釈明は訴因の内容とはならず、裁判所が訴因変更手続を経ずに実行行為者を「甲又は乙あるいはその両名」と認定したとしても、不告不理の原則には反しない。

⑵ もっとも、乙のみを実行行為者とする検察官の釈明により、本件では主として共謀の有無が争点となっていたと思われる。そこで、争点顕在化手続を経ずに、実行行為者を「甲又は乙あるいはその両名」と認定することは、争点逸脱認定に当たり許されないのではないか。

ア この点について、訴因は被告人の防御の範囲を確定し、争点は訴因の範囲で被告人の防御権を具体的に保障するものである。そこで、①当該認定事実の重要性の程度と、②防御権侵害の程度を考慮し、被告人に不意打ちを与えるような認定を争点顕在化手続を経ずにすることは、適切な訴訟指揮(294条)を欠く争点逸脱認定として違法(379条参照)となると考える。

イ これを本件についてみる。認定された事実は甲の実行行為への関与であり、罪となるべき事実そのものではないものの、甲の犯情をより重くする事実である。そうだとすると、実行行為者が誰であるかという事実は本件において重要である(①充足)。また、冒頭手続で検察官が乙のみが実行行為者であると釈明した以上、甲は自らが実行行為者と認定されることを予測しておらず、その点についての防御活動も行っていない。そのため、裁判所の上記認定は、甲の防御権を大きく侵害するものである(②)。

ウ したがって、争点顕在化手続を経ずに上記認定をすることは、争点逸脱認定に当たり、許されない。

⑶ よって、実行行為者についての争点顕在化手続を経れば、裁判所は実行行為者を「甲又は乙あるいはその両名」と認定して有罪の判決をすることが許される。 

以上

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