平成24年(2012年)予備試験民事訴訟法答案

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初めまして、武藤遼といいます。 まずは自己紹介をさせていただきます。 僕は今、司法試験の受験指導をしています。大学4年生の時からこの仕事をやっています。 武藤流というブランドで教えてます。僕は今25歳なので、3年近く受験指導をしていることに[…]

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2012年民事訴訟法問題

答案

第1 設問1について

1 主張①について

⑴ 第1訴訟における請求全部認容判決が確定したことにより、確定判決の後訴における通用力ないし判断力たる既判力(114条1項)が生じている。では、この既判力が第2訴訟に及ぶことにより、Yの主張①は遮断されるか。

ア まず、本件でいかなる範囲に既判力が生じているか。

この点について、審理の簡易化・弾力化のため、既判力は訴訟物たる権利関係の存否についての判断にのみ生じると解する。

これを本件についてみる。明示的一部請求の場合は明示部分のみが訴訟物となるから、本件売買契約に基づく代金支払請求権のうち150万円の支払いを求める部分が訴訟物となる。

したがって、上記150万円の請求の存在について既判力が生じる

イ では、第1訴訟の既判力は第2訴訟に作用するか。

この点について、前訴の既判力は、前訴と後訴の訴訟物が同一である場合のみならず、前訴判決が後訴の訴訟物の先決関係にある場合や後訴の訴訟物が前訴判決と矛盾関係にある場合にも、後訴に及ぶと解する。

これを本件についてみる。第1訴訟の訴訟物は明示された150万円の存在であるところ、第2訴訟の訴訟物は残部の250万円の部分であるから、前訴の訴訟物とは異なる。また、確かに、数量的一部請求の審理は債権全部に及び、一部請求が棄却されるということは残部が存在しないことを意味するため、一部請求と残部請求の関係は、後者が前者の全部認容を前提とする関係にあるといえ、前者が後者の先決関係にある場合に当たるとも思える。しかし、このように考えると、前訴における判決理由中の判断について既判力を肯定することになってしまい、妥当でない。そして、第1訴訟の訴訟物が第2訴訟の訴訟物を発生させる法規(民法555条)を適用するための論理的前提となっているわけではない以上、前訴判決が後訴の訴訟物の先決関係にある場合に当たらない。さらに、一部請求と残部請求は両方認められ得る以上、第2訴訟の訴訟物が第1訴訟の判決と矛盾関係にある場合にも当たらない。

したがって、第1訴訟の既判力は第2訴訟に作用しない。

ウ よって、第1訴訟の既判力は第2訴訟に及ばず、Yの主張①が既判力によって遮断されることはない。

⑵ しかし、第1訴訟で本件売買契約の買主がYかZかについて争われ、裁判所がYと判断したにもかかわらず、主張①を許すと、第1訴訟の紛争を蒸し返すことになる。

ア ここで、前訴で当事者が主要な争点として争い、かつ、裁判所がこれを審理した上でなしたその争点についての判断に生じる通用力である争点効を認める場合には、Yの主張①を遮断し得る。しかし、実定法上の根拠のないまま、不明確な要件による制度的効力としての拘束力を認めるべきではないから、争点効は否定すべきである。

イ もっとも、前訴での主張との実質的同一性や前訴での主張可能性などを考慮した上で、後訴における主張が実質的に前訴の蒸し返しといえる場合には、当該主張は信義則(法2条)に反し許されないと考える。本件では、Yは第1訴訟で本件売買契約の買主がYではなくZであるという主張について十分な攻撃防御を尽くしたと考えられるから、主張①は実質的に前訴の蒸し返しといえる。

ウ したがって、Yの主張①は信義則により許されない。

2 主張②について

⑴ まず、前述のとおり、第1訴訟の既判力は第2訴訟に及ばない。また、争点効についても前述の通り否定される。

⑵ では、主張②は信義則によって遮断されないか。前述と同様の基準で判断する。

第1訴訟において、Yは訴訟物たる代金支払請求権を否認する主張をしていた。そして、第2訴訟では、Yは訴訟物である代金支払請求権とは別個の債権による相殺を主張している。これは、訴訟物である代金支払請求権が存在することを前提とするものであるから、第1訴訟における上記主張と実質的に同一の主張とはいえない。また、相殺の抗弁は、反対債権の犠牲という不利益を伴うため、第1訴訟における主張を必ずしも期待できなかった。そのため、主張②は実質的に前訴の蒸し返しとはいえない。

⑶ したがって、主張②は信義則に反せず、許される。

第2 設問2について

1 裁判所は、Yによる弁済の抗弁と相殺の抗弁のいずれも認定できるとの心証を抱いている。そして、裁判所が先に弁済の抗弁を認定した場合、「相殺をもって対抗した額」(114条2項)は220万円となり、自働債権について220万円の存在について既判力が生じ、残り80万円について既判力は生じない。他方、相殺の抗弁を先に認定した場合、「相殺をもって対抗した額」は300万円となり、この全額について既判力が生じる。このような違いが生じることを前提にして、裁判所は、どちらの抗弁を先に認定するべきか。

2 この点について、当事者から同じ目的を持つ複数の抗弁がなされた場合、どれを先に認定したとしても、既判力の生じる範囲は異ならないから、原則として抗弁を認定する順番は自由である。しかし、相殺の抗弁は予備的抗弁としての性格を有しており、「相殺をもって対抗した額」の範囲で既判力が認められている(同項)。そのため、ほかの一般の抗弁が認定された後に判断した方が当事者の利益に合致する。

3 したがって、裁判所は、弁済の抗弁を先に認定する必要があるという点に留意して、判決をすべきである。

以上

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