平成24年(2012年)予備試験刑事訴訟法答案
武藤遼のプロフィール
初めまして、武藤遼といいます。 まずは自己紹介をさせていただきます。 僕は今、司法試験の受験指導をしています。大学4年生の時からこの仕事をやっています。 武藤流というブランドで教えてます。僕は今25歳なので、3年近く受験指導をしていることに[…]
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答案
1 おとり捜査の適法性について
⑴ 警察官KがAをして、甲に対し、「覚せい剤100グラムを購入したい」と申込みをせしめた行為は、捜査機関等がその身分や糸を相手方に秘して犯罪を実行するように働きかけ、相手方がこれに応じて犯罪の実行に出たところで現行犯逮捕等により検挙する、いわゆるおとり捜査に当たる。そこで、かかる捜査が「強制の処分」(197条1項ただし書)に当たれば、強制処分法定主義に反し違法となるところ、強制処分の意義が問題となる。
ア この点について、「強制の処分」とは、被処分者の意思に反して重要な権利利益を侵害する処分をいう。
イ これを本件についてみる。本件では、詐術的な手段を用いているといえども、犯人はあくまで自発的に覚せい剤の売買を行っており、捜査機関はなんら強制的手段を用いていない。そのため、意思に反する重要な権利利益の侵害が認められない。
ウ したがって、おとり捜査は、「強制の処分」には当たらない。
⑵ もっとも、任意捜査であっても無制限に許容されるものではなく、捜査比例の原則から、捜査目的を達成するため必要かつ相当といえる場合にのみ許容されると解する。
本件おとり捜査が対象とする薬物犯罪は、直接の被害者がおらず証拠の少ないことに加え、密行性の高い犯罪であることからAから提供された情報及び通常の捜査方法のみでは被疑者の検挙が困難な場合である。そのため、おとり捜査を用いる必要性は高い。
また、甲は既にAに対し覚せい剤の購入を持ちかけていたのであるから、機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者であるところ、このような者に対し、覚せい剤の購入を申し込んだにすぎず、捜査機関が犯罪を行う意思を誘発したわけではない。そうだとすれば、かかる行為は社会通念上相当といえる。
⑶ よって、本件おとり捜査は任意捜査として適法である。
2 録音の適法性について
⑴ 警察官KはAをして、甲とAの会話をかばんに隠したビデオカメラで録音させているが、かかる捜査は適法か。上記捜査が強制処分に当たるかを検討する。
ア Aとの会話が録音されていることを知っていれば、甲は本件の会話を行わなかったと思われるから、上記捜査はAの意思に反しているといえる。また、かかる捜査により、会話の内容に関するプライバシー権が侵害されているとも思える。しかし、対話内容の秘密は対話当事者間においては原則として相手方の処分に委ねられることから、本件録音のように会話の一方当事者の承諾の下に行われる秘密録音は、対話内容の秘密にかかるプライバシー権の核心を侵すものとはいえず、重要な権利利益を侵害するとはいえない。
イ したがって、右捜査は強制処分には当たらない。
⑵ それでは、上記捜査は任意捜査として適法か。
本問ではAからの情報提供により甲には薬物犯罪の嫌疑が存在していたことに加え、甲がAに100グラムという大量の覚せい剤の取引を持ちかけている点で組織的な薬物犯罪にも関与している疑いが強かった。さらに、覚せい剤譲渡の契約成立から引渡しまでの短い間に甲を速やかに逮捕するためには、令状発布を得られるだけの疎明資料を得る必要もあったといえる。そして、疎明資料としては、Aと甲との会話内容の音声が必要であり上記捜査の必要性は認められる。
そして、喫茶店は他の客に会話の内容が聞かれてしまってもおかしくない空間であり、対話内容の秘密に対する期待もさほど高度のものとはいえない。そうだとすれば、一方当事者たるAの同意を得て甲とAとの会話の内容を録音することは社会通念上相当といえる。
⑶ よって、上記捜査は任意捜査として適法である。
3 ビデオ撮影・録画の適法性について
⑴ 警察官KはAをして、甲の姿をかばんに隠したビデオカメラで撮影し録画させているが、かかる捜査は適法か。上記捜査が強制処分に当たるかを検討する。
ア まず、甲が撮影・録画を知っていれば、これに応じることはないと考えられるから、上記捜査は甲の意思に反している。そして、上記捜査により、Aの容ぼうに関するプライバシー権が侵害が問題となるも、前述の通り、撮影は多くの客が自由に出入りでき、上記権利の期待が減少している喫茶店で行われている。そのため、このような空間でビデオ撮影・録画を行ったとしても、被撮影者の重要な権利利益を侵害するものとはいえない。
イ したがって、上記捜査は強制処分には当たらない。
⑵ それでは、上記捜査は任意捜査として適法か。
前述のように、捜査は困難であり、疎明資料を手に入れるためには発言者を確定するために撮影が必要であったから、捜査の必要性は高い。また、上記捜査は喫茶店で行われており、他人から容ぼう等を観察されること自体は受忍せざるを得ない場所での撮影・録画である。そのため、甲の権利侵害の程度はさほど大きくなく、社会通念上相当といえる。
⑶ よって、上記捜査は任意捜査として適法である。
以上
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