平成23年(2011年)予備試験刑事実務基礎答案

武藤遼のプロフィール

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初めまして、武藤遼といいます。 まずは自己紹介をさせていただきます。 僕は今、司法試験の受験指導をしています。大学4年生の時からこの仕事をやっています。 武藤流というブランドで教えてます。僕は今25歳なので、3年近く受験指導をしていることに[…]

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2011年刑事実務基礎問題

答案

第1 設問1

1 本件においては、甲がキャリーバックを持ち去った人物(以下「犯人」という)であることを示す直接証拠はない。そこで、間接事実の積み重ねにより甲と犯人の同一性を検討する。

2 間接事実

⑴ 被害品の近接所持

ア 犯人は、平成23年3月5日午後2時30分過ぎ頃、A駅ホームから乙のキャリーバックを持ち去ったことが認められる。被害品である乙のキャリーバックは、黒色、B社製、外側ポケット部分に金色の「B」のロゴが入ったもので、その外側ポケットに乙の携帯電話が入っていた。

イ そして、甲は、同日午後2時40分ごろ、A駅改札内にて上記キャリーバックと特徴の一致するものを所持しており、その外側ポケットには乙の携帯電話が入っていた。そのため、甲が所持していたキャリーバックは本件の被害品であると認められる。

ウ 犯行から約10分後にA駅改札内という犯行と極めて近接した時間・場所において被害品を所持していたことや、乙がまさに使用していたキャリーバックが駅の改札内において10分程度の短時間のうちに転々流通することは考え難いことからすれば、この事実は甲の犯人性を強く推認させる。

⑵ 犯行前の行動と犯行可能性

ア 犯人は、同日午後2時30分過ぎ頃、A駅ホームから乙のキャリーバックを持ち去っている。そして、同日午後2時10分ごろ、白髪で身長約180センチメートル、紺色のスーツを着た手ぶらの男性がA駅ホームにいた(乙供述)ところ、甲は、同様の特徴を有しており事情聴取時において乙のキャリーバック以外に手荷物を所持していたとはうかがわれない。このように、犯人の特徴と甲の特徴とが合致することに加え、電車に乗るのに手ぶらで外出する人は多くないことも合わせ考えれば、午後2時10分ごろにA駅ホームにいた者は甲であると合理的に推認できる。

イ また、防犯カメラ1の画像から、同日午後1時5分ごろに電車から降りてA駅ホームにとどまっていた男性がいたところ、この男性とも甲の特徴が一致する。さらに、甲は、A駅から電車で3分のB駅に0時55分に購入した「B駅→A駅」の乗車券を所持しており、午後1時5分ごろにA駅に到着することも自然であることからすれば、上記男性は甲であると合理的に推認できる。

ウ さらに、甲は、犯行10分後の午後2時40分ごろにも未だ改札内にとどまっていたことが認められる。

エ これらの事情から、甲は、午後1時5分から午後2時40分の約1時間半もの間、A駅改札内にとどまっていたことになる。これは、甲が犯行時刻に犯行現場におり、本件犯行を行う機会が可能であったことを示す事実である。その上、駅の改札内に1時間半も留まる理由は通常なく、不自然な行動といえることからすれば、この事実は、甲の犯人性を一定程度推認させるといえる。

⑶ 犯行後の行動

甲は、乙に声をかけられてから、キャリーバックを持ち上げて走り出そうとする仕草を見せたところ、これは犯行が発覚して逃亡しようとする犯人に一般的に見られる行動である。仮に、甲がキャリーバックを持ち去っていなかったとすれば、通常そのような行動とる事は考え難いので、この事実は甲の犯人性を一定程度推認させる。

2 間接事実の総合評価

甲が被害品を近接所持していたこと、逃亡を図ろうとする甲の犯行後の行動、甲が犯行時刻に犯行現場周辺にいたことを総合考慮すれば甲以外の者が犯人である可能性は低い。したがって、合理的疑いを容れない程度に甲が犯人であると推認できる。

3 甲の供述の信用性

甲は、キャリーバックを持ち去ったこと自体は認めているところ、現に乙のキャリーバックを所持していた点でAのかかる供述は客観的状況と整合する。したがって、この点に関する甲の供述は信用できる。

4 以上より、甲の犯人性が認められる。

第2 設問2

1 乙の占有の有無

⑴ 窃盗罪における占有は、物に対する事実上の支配の有無・程度と言う客観的事実及び窃盗の支配の意思の有無・程度を総合考慮して決せられる。

⑵ これを本件についてみる。乙は、キャリーバックをベンチに置いたまま同所を離れているものの、これは同所から15メートル先という比較的近くにあるホーム上の売店に向かうためであった。また、乙の売店付近にいたのは5分程度という短時間であるし、そこからベンチを見通すことも十分に可能な状態であった。そうだとすれば、乙はキャリーバックを直接所持していなかったとしても、依然としてキャリーバッグに対する支配を有していたといえる。

⑶ したがって、事実上の支配及び支配の意思が認められることから、乙のキャリーバッグに対する占有が認められる。

2 窃盗の故意の有無

⑴ 窃盗の故意は、他人の占有する財物をその者の意思に反して自己の占有下に移すことを認識している場合に認められる。

これを本件についてみる。乙の前を何回も往復していた甲は午後2時10分ごろにキャリーバックを所持する乙がベンチに座ってる姿を認識していたと考えられる(防犯カメラ2の画像)。そして、甲はその後もホームにとどまっていたわけであるから、甲は、乙が近くの売店に向かう姿やその後の乙の動向についても認識していたといえる。また、キャリーバックのそばにはコートもあり甲もこれを認識していたと考えられるところ、寒い時期にコートを忘れる事は考え難く、すぐに所持者である乙が戻ってくることは想定できたはずである。そうだとすれば、甲は、乙の占有を基礎付ける具体的事実を認識していたといえる。

したがって、合理的な疑いを超えて、乙の占有する財物をその意思に反して自己の占有下に移すことを甲が認識していたと認められる。

⑵ これに対し、甲は、午後2時過ぎ頃にA駅に着いて、置かれているキャリーバックを忘れ物と思い事務室に持っていこうとした旨供述しており、乙の意思に反しない占有移転だった旨弁解している。しかし、キャリーバックの忘れ物だと考えたのであれば、そのすぐ側にあったコートも同様に届けようとするはずであるにもかかわらず、これには手をつけておらず、これは不合理である。そのため、甲の弁解は上記認定に合理的疑いを抱かせるものではない。

⑶ よって、合理的な疑いを超えて、甲の窃盗の故意は認められる。

以上

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