平成23年(2011年)予備試験刑法答案

武藤遼のプロフィール

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初めまして、武藤遼といいます。 まずは自己紹介をさせていただきます。 僕は今、司法試験の受験指導をしています。大学4年生の時からこの仕事をやっています。 武藤流というブランドで教えてます。僕は今25歳なので、3年近く受験指導をしていることに[…]

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2011年刑法問題

答案

第1 甲が、乙と丙の周囲に灯油を巻き、ライターで点火した行為に乙に対する嘱託殺人罪(202条後段)が成立しないか。

1 同罪のいう「嘱託」とは、被害者の真意に基づく依頼をいう。乙は、従前から甲に対し「一緒に死にましょう」などと繰り返し言っていた。そして、自己の腹部という人体の枢要部に果物ナイフを突き刺し実際に自らの死の危険性を生じさせた後に、甲に対し「早く楽にして」と言っている。これらの事情からすれば、乙の依頼は真意に基づくものであったといえる。したがって、「嘱託」があったといえる。

2 甲は乙の首を絞めつけた後、上記点火行為を行っている。これら2つの行為は時間的場所的接着性が認められ、両者は一個の行為であるといえる。かかる行為には、人を死亡させる現実的危険性があるといえ、同罪の実行行為に該当する。

3 乙の死因は多量の一酸化炭素を吸引したことによる一酸化炭素中毒である。一酸化炭素が発生した原因は甲の放火行為であるから、乙死亡の結果は上記行為の危険が現実化したものといえ、因果関係も認められる。

4 もっとも、甲は、乙の首を締め付けた時点ですでに乙は死亡したと誤信しており、甲の想定していた因果経過と現実の因果経過とに齟齬がある。そこで、因果関係に錯誤があるとして故意が阻却されないか。

⑴ この点について、因果関係は客観的構成要件であるため、故意の認識対象となるところ、故意責任の本質は、規範に直面しつつ反対動機を形成可能であったにもかかわらず、あえて行為を行ったことに対する道義的な非難にある。そこで、行為者の想定した因果関係と現実の因果関係のそれぞれについて因果関係に認められるという点で符合していれば、故意責任を認めることができると解する。

⑵ これを本件についてみる。首を締め付ける行為は窒息死の現実的危険性を惹起させる行為であるから、甲の想定していた因果関係を前提としても因果関係が認められる。そのため、因果関係が認められるという点において両者は符合している。

⑶ したがって、甲の故意は阻却されない。

5 以上により、上記行為には嘱託殺人罪が成立する。

第2 次に、同行為に現住建造物放火罪(108条)が成立しないか。

1 まず、実際には乙が生きていたことから甲宅は「現に人がいる建造物」といえ、また、甲宅は全焼して「焼損」していることから、甲の点火行為には、現住建造物放火罪(108条)の客観的構成要件該当性が認められる。

2 もっとも、甲は、乙が死亡していると誤信しており、軽い非現住建造物放火罪(109条1項)の故意があるに過ぎないため、現住建造物放火罪は成立しない(38条2項)。

第3 では、上記行為に非現住建造物放火罪が成立するか。

1 まず、同罪の故意に対応した客観的構成要件該当性が認められるか。

⑴ この点について、構成要件は法益侵害行為を行為態様と保護法益によって分類したものであるから、行為態様及び保護法益が共通する場合には、実質的な構成要件の重なり合いが認められると考える。

⑵ これを本件についてみる。火を放つという行為態様については現住性の有無に関わらず全く同一であるし、財産権及び公共の危険の限度において両罪の保護法益には重なり合いが認められる。

⑶ したがって、現住建造物放火罪と非現住建造物放火罪との間には、実質的な構成要件の重なり合いが認められ、非現住建造物放火罪の客観的構成要件該当性が認められる。

2 また、甲宅には抵当権が設定されているため、「物件を負担」(115条)するものとして、公共の危険の発生の有無に関わらず、109条1項の罪が成立する。

3 よって、上記行為に非現住建造物放火罪が成立する。

第4 丙の試飲は頚部圧迫による窒息死であり、甲が丙に灯油をかけて点火した時点では丙は死亡していたといえるから、かかる点火行為には死体損壊罪(190条)が成立する。

第5 甲は、乙が丙を殺した痕跡を消すために点火行為を行っていることから、丙の殺人罪という「他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し」たとして、同行為に証拠隠滅罪(104条)が成立しないか。

1 本件において、甲は、「他人」である乙が既に死亡していると誤信していることから、構成要件的故意を欠き、証拠隠滅罪は成立しないとも思える。しかし、同罪の保護法益は国家の司法作用にあるところ、犯罪を行なった者の生死にかかわらず、証拠が隠滅されると同作用は害される。そのため、犯罪を行なった「他人」の生死は同罪の成否に影響しないと解する。そうすると、乙の死亡について誤信していたとしても、同罪の故意が認められる。

2 もっとも、上記行為は、自己の犯した嘱託殺人罪の証拠隠滅行為でもある。嘱託があったとはいえ人の死亡結果を生じさせるという重大な犯罪を行った者が、放火して証拠隠滅を行うことは十分に想定できることである。そうだとすれば、たとえ他人の刑事事件の証拠隠滅的を目的としていたとしても、証拠隠滅行為をしないことにつき期待可能性が認められないといえ、自己の刑事事件の証拠隠滅行為により不可罰とした趣旨が妥当する。

3 よって、上記行為に証拠隠滅罪は成立しない。

第5 以上により、嘱託殺人罪、非現住建造物放火罪、死体損壊罪が成立し、これらは一つの行為として行われたものなので、観念的競合(54条1項前段)として科刑上一罪として処断される。甲は、かかる罪責を負う。

以上

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