平成31年(令和元年・2019年)予備試験刑事実務基礎答案

武藤遼のプロフィール

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初めまして、武藤遼といいます。 まずは自己紹介をさせていただきます。 僕は今、司法試験の受験指導をしています。大学4年生の時からこの仕事をやっています。 武藤流というブランドで教えてます。僕は今25歳なので、3年近く受験指導をしていることに[…]

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2019年刑事実務基礎問題

答案

第1 設問1 

1 本件では、AはVに対し暴行を行ったことを否認しており、罪証隠滅の対象としてはAの犯人性が考えられる。そして、罪証隠滅の態様としては、当時一緒にいたBの供述をしないよう働きかけたり、交際相手や友人にアリバイ供述を頼むことが考えられる。

2 これらの客観的可能性及び実効性につき検討すると、BはAの後輩であるから、Aは先輩である立場を利用してBに不利な供述をしないよう働きかけることは可能である。また、Aへの重い処分を望まないA の交際相手や友人に対してアリバイ工作を依頼することも可能である。これらはAとの関係からすれば比較的容易であり、またこれらの工作がなされることによって事件の真相を明らかにする証拠は簡単に隠滅されてしまうことになる。

3 そして、AやBが所持していたスマートフォンからは「カラオケ店にいたことにしよう」や「防犯カメラとかで嘘とばれるかも。誰かに頼んで一緒にいたことにしてもらうのは?」などとやりとりしていたデータが発見されており、Bが実際に証拠の隠滅を図ろうとする可能性は高い。Aは傷害罪の執行猶予中であり、本件で有罪となった場合には執行猶予が取り消されさらに重い刑が下される可能性が高いから、Bがこれらの隠滅行為を行う動機は十分にあるといえる。

4 以上の検討から、本件において、裁判官は、Aにつき、「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当の理由」がある判断したと考えられる。

第2 設問2

1 直接証拠該当性について

Wの検察官面前の供述録取書は、A及びBいずれの関係においても直接証拠に当たらない。直接証拠とは、要証事実を直接証明することができる証拠を言うところ、Wの供述が直接証拠といえるためには、Wの供述が犯人識別供述、すなわち犯人の犯行を目撃し、かつその犯人がAやBであったことが述べられていなければならない。Wの供述は犯人の犯行を目撃したものであるが、それがAやBであると識別していたわけではない。そのため、W の供述は犯人識別供述には当たらず、直接証拠とはいえない。

2 検察官の考える推認過程

Wは犯人を識別できていないものの、犯人の一人について、黒色のキャップを被り、両腕にアルファベットが書かれた赤色のジャンパーを着ていたとするWの供述は、A宅から同様のキャップ及びジャンパーが見つかったことと合わせAが犯人であることを推認させる。同様に、もう一人の犯人について茶髪で黒色のダウンジャケットを着ていたとのWの供述は、Bが茶髪でありB宅から同様のダウンジャケットが見つかったことと合わせBが犯人であることを推認させる。また、Wは20枚の写真からBの写真を選んでいるところ、Wが犯行を目撃した際近くにあった街頭の明かりで茶髪の男はよく見えたと供述しており、Wが複数の写真からBの写真を犯人として選んだことはBの犯人性を推認させる。

第3 設問3

1 傘の先端でその腹部を2回突いたこと

傘の先端がV の腹部に当たったことは事実だが、それはVが突然Aの肩を掴んできたことから、驚いてVの方を振り返ったことから手に持っていた傘の先端が偶然当たってしまったに過ぎず、AはVの腹部目掛けて傘を突いたわけではない。また、傘の先端がVの腹部に当たってしまったのは1回だけであって、2回当たった事実はない。

2 足でその腹部及び脇腹等の上半身を多数回蹴る暴行

Aが足でVの腹部を蹴ってしまったことについても、傘が当たったことに腹を立てたVが拳骨で殴りかかってきたため、Aは自分を守るためにおこなった行為に過ぎない。しかし、Vはなお「謝れよ」などと述べ両手でA の両肩を掴んで離さなかったため、AはVから逃げたい一心でVの腹部や脇腹等の上半身を蹴ってしまったに過ぎない。これらのAの行為は全てVからの暴行から自身の身を守りVの暴行から逃げるために行われた行為である。

第4 設問4

1 Aは犯行を否認していたものの、最終的にVに腹が立ったため、被疑事実通りの暴行をWに対して行ったことを認めるに至った。それにも関わらず弁護人はAの犯行を否認し、無罪を主張していることは、事件の真相を明らかにすることを妨げる行為であって、真実義務に反する(弁護士職務倫理規程5条)に抵触するという弁護士倫理上の問題がある。

2 このように被告人から無罪を主張するよう頼まれた場合、上記真実義務から被告人に対し翻意するよう説得を行うべきであるが、弁護人は真実義務を負うと同時に被告人に対する誠実義務をも負っている(同条)から、被告人が説得に応じず無罪主張を維持する場合、十分な説得を行った上で無罪主張をすることは必ずしも弁護士倫理職務規定に反するものではないと考える。

第5 設問5 

1 請求しようとした証拠

Bの審理における被告人質問において作成された裁判官面前調書

2 検察官の対応

Aに対する審理においては、Bは第三者でありBの供述を録取した裁判官面前調書は伝聞証拠にあたる。そして、弁護人が不同意の証拠意見を述べた場合(326条1項)、その証拠能力は原則として否定される。

この場合、同調書に証拠能力が認められるためには伝聞例外の要件を満たす必要があるところ、本件では321条1項1号の要件を満たす必要がある。同調書は被告人質問でのA の供述を録取した書面であり、「裁判官の面前における供述を録取した書面」といえる。そして、被告人質問では、AがVに対しどのような行為をしたかについて詳細に述べているところ、A の審理においてはAが何をしていたかは見ていないので分からないと述べており、「公判期日において前の供述と異なつた供述をしたとき」にあたる(同号後段)。

したがって、伝聞例外の要件を満たすため、同号によって裁判官面前調書を証拠として取調請求するという対応をすべきである。

以上

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