平成30年(2018年)予備試験刑事実務基礎答案
武藤遼のプロフィール
初めまして、武藤遼といいます。 まずは自己紹介をさせていただきます。 僕は今、司法試験の受験指導をしています。大学4年生の時からこの仕事をやっています。 武藤流というブランドで教えてます。僕は今25歳なので、3年近く受験指導をしていることに[…]
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答案
第1 設問1について
1 「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある」(刑事訴訟法89条4号)の有無は、①罪証隠滅の対象・態様、②罪証隠滅の客観的可能性、及び③罪証隠滅の主観的可能性を考慮して判断される。
2 これを本件についてみる。Aは、犯行を否認しているところ、共犯者が捜査機関に判明しないように共犯者の存在を隠蔽することが考えられる、また、カーナビは警察に提出されているものの、Aは犯行を否認していることから、売却を依頼した人物をでっち上げる可能性もある(①)。次に、共犯者との口裏合わせや証人威迫といった行為は、自己の犯行が認められない方向に働くものであり、Aに大きな実益をもたらすものである。さらに、AはW2の顔を覚えている可能性が高く、その住所を把握するおそれもある。これらの事情からすれば、罪証隠滅の客観的可能性もある(②)。そして、本件窃盗の被害は200万円を超え、かつ、器物損害の被害も自動車の窓ガラスを割るといった重大なものであるから、Aにはその罪を逃れようとする意識が大きく働くといえ、罪証隠滅の主観的可能性があるといえる(③)。
3 以上から、「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当の理由がある」といえる。
第2 設問2について
1 本件①の書面について
本件①の書面は、犯行現場の実況見分調書であり「検証」に準じた書面といえ、321条3項が適用される。したがって、316条の15第3項1号イに規定された「第1号各号に掲げる証拠の類型」事項として321条3項を示す。
また、316条の15第3項1号ロの「検察官請求証拠の証明力を判断するために重要である」事項として、実況見分調書は観察条件を明らかにすることができることから、W2の目撃供述の信用性を侵害する書面といえることを示す。
2 本件②の書面について
本件②の書面は、W2の警察官面前の供述録取書であるところ、これは甲8号証と供述者が同じである。また、甲8号証が不同意にされた際に検察官はW2の証人尋問請求を行っており、当該書面は316条の15第1項5号ロの書面に該当する。したがって、この同号ロを「第1項各号に掲げる証拠の類型」(316条の15第3項1号イ)として示す。
また、「証明力を判断するために重要である」事項(316条の15第3項1号ロ)として、当該W2の警察官面前の供述録取書があれば、W2の供述の変遷、一貫性を判断することができ、W2の目撃供述の信用性を侵害することが可能となることを示す。
3 本件③の書面について
本件③の書面は、本件被告事件の犯行日時頃、犯行現場付近に存在した者の供述録取書であり、W2以外の犯行現場の目撃供述を示す書面といえる。甲8号証はAが犯人であることを直接的に示すものであり、本件③の書面は、316条の15第1項6号に該当する書面といえる。したがって、同号を「第1項各号に掲げる証拠の類型」(316条の15第3項1号イ)として示す。
また、「証明力を判断するために重要である」事項(316条の15第3項1号ロ)として、当該W2以外の目撃供述はW2の目撃供述との内容の齟齬を示すことができるため、W2の目撃供述の信用性を侵害することが可能となることを示すことになる。
第3 設問3について
本件では、Bに係る事件の捜査が行われることにより、Aに係る本件被告事件についても、AB間の共謀の事実やCDが被害品である旨を加える必要が生じている。そこで、検察官は公訴事実のうち、「氏名不詳者との共謀の上」の部分を「Bと共謀の上」に、「200万円在中の鞄1個」の部分を、「200万円及び本件CD在中の鞄1個」にそれぞれ訴因変更請求をすることが考えられる(312条1項)。この場合、検察官は、上記で示した訴因変更した公訴事実に即して、変更した証明予定事実記載書面を作成し、同書面を裁判所へ提出するとともに被告人又は弁護人に送付することになる(316条の2第1項)。
第4 設問4について
1 小問⑴について
直接証拠とは、要証事実を直接証明する証拠であり、本件では、犯人の犯行を目撃し、かつ犯人をAであると識別した供述が直接証拠に当たる。W2の供述内容は、(i)Aが本件自動車から降りたこと、(ii)慌てた様子でティッシュペーパーの箱を2つ重ねたくらいの大きさの電化製品を持っていたこと、(iii)Aが本件自動車の助手席に乗りたった後、本件自動車の運転席側の窓が割れていることを発見したことである。これらは、W2の供述は犯行に及んだ場面を直接に目撃したという内容のものではなく、「器物損害や窃盗に及んだ」という事実の直接証拠とならない。
もっとも、W2の供述内容は、Aが降りてきた本件自動車の窓ガラスが割れていたことを示すものであり、Aが慌てていたという様子も合わせると、Aが窓ガラスを割った犯人である事実を推認することができる間接証拠といえる。また、ティッシュペーパーの箱を2つ重ねたぐらいの大きさの電化製品という供述内容は、縦・横・高さの比率関係からしてAが持っていた電化製品がカーナビであった事実を推認することができる。したがって、当該W2の供述内容はAが窃取した犯人であることを推認することができる間接証拠であるといえる。
2 小問⑵について
裁判長は、Aの弁護人から証人尋問は「必要がない」という証拠意見が出たので、証人尋問を行う必要性について立証責任を負う検察官に釈明を求めている(刑事訴訟規則208条1項)。本件B及びW2の証人尋問ともに被告人Aの犯人性を要証事実とするところ、裁判所は両証拠をともに証拠調べ請求する必要性について明らかにさせる観点から求釈明を行った。
3 小問⑶について
検察官は、利害関係のないW2の供述とBの供述とが整合していることを立証すべく、別個の証人尋問を行う必要性があるとの釈明をすることになる。すなわち、Bは共犯者であり、被告人が犯人性を否認している本件では、その供述のみではAに対する巻き込みの危険性が高い。そのため、Aと面識がない第三者による犯行目撃状況について別途尋問する必要があるとの釈明をすべきである。
5 小問5について
⑴刑事訴訟法上の問題点
公判前整理手続後にBの弁償金の領収証の写しを証拠調べ請求することは原則として認められない(316条の32第1項)。もっとも、「やむを得ない事由」があれば例外的に証拠調べ請求をすることが許される。
本件では、平成30年8月28日になってBがVに対して250万円を弁償した旨の領収証が交付されている。領収証の写しを入手したのは9月15日になってからであり、終結以前に提出し得なかった証拠といえ、「やむを得ない事由」があったといえる。したがって、同項に違反しない。
⑵弁護士倫理上の問題点
Bの弁償に関する証拠につき証拠調べ請求することは、Aが犯人であることを自認したものと受け止められる危険性がある。Aの弁護人は、Aの意思に反する弁護活動をおこなったものとして弁護士職務基本規程22条1項に反するおそれが生じる。そこで、当該立証をするにあたっては、Aと立証することによる利害を協議した上で決定すべき必要性がある。
本件において、Aは事件の犯人性を否定しているところ、本件証拠調べ請求はAが事件の犯人であることを前提とするものである。このような請求は弁護人の誠実義務(弁護士職務基本規程(以下「規程」という。)5条)や被告人にとっての最善の弁護活動(規程46条)に反する恐れがある。そのため、このような請求をする場合、少なくとも被告人との協議等を行う必要があったといえる(規程36条)が、本件ではこれを行なっていない。したがって、本件証拠調べ請求には弁護士倫理上の問題がある。
以上
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