平成30年(2018年)予備試験行政法答案

武藤遼のプロフィール

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初めまして、武藤遼といいます。 まずは自己紹介をさせていただきます。 僕は今、司法試験の受験指導をしています。大学4年生の時からこの仕事をやっています。 武藤流というブランドで教えてます。僕は今25歳なので、3年近く受験指導をしていることに[…]

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2018年憲法問題

答案

第1 設問1について

1 抗告訴訟の対象となる「行政庁の処分その他の公権力の行使にあたる行為」(行政事件訴訟法(以下、「行訴法」という)3条2項、3項)とは、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって直接国民の権利義務を形成し若しくはその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。

2 これを本件についてみる。

⑴ 本件勧告は、知事が条例48条を根拠として行うものであり、公権力性が認められる。

本件勧告の具体的法効果について検討するに、Y県からは、勧告は行政指導にすぎず、本件勧告により具体的な法的効果が発生していないから、本件勧告は抗告訴訟の対象とならないとの反論が考えられる。

しかし、勧告自体に具体的な法効果性が認められないとしても、勧告を受けた者は、勧告に従わない場合、条例50条により、公表を受け得る法的地位に立たされる。そして、同条は「公表するものとする」との文言を用いており、この文言からすれば、勧告に従わない場合、ほぼ確実に公表という後続処分が行われることになる。また、Xに対する行政上の措置が公表されてしまえば、Xの信用が失墜し、融資が停止されるという不利益が生じる。この不利益は重大なものであり、一度失った信用を回復するためには相当の困難を伴う。これらのことを考慮すれば、本件勧告にはXに対する具体的な法効果があるといえる。

⑵ 本件公表についても、知事が条例50条を根拠として行うものであり、公権力性が認められる。

本件公表の具体的法効果について、Y県からは、公表は事実行為であり、公表による信用失墜という不利益も事実上のものに過ぎないとの反論が考えられる。

しかし、条例は勧告に続く後続処分として公表という処分を定め、その後に続く処分を定めていない。勧告への不服従を理由とする罰則規定等の他の処分がないことからすれば、公表という処分が勧告への不服従に対する実質的な制裁処分であるとみることができる。そうだとすれば、信用の失墜という結果が公表により生じ得る法的効果として条例上予定されていると考えることができ、本件公表にはXに対する具体的な法効果があるといえる。

3 以上より、本件勧告及び本件公表は抗告訴訟の対象となる「行政庁の処分その他の公権力の行使にあたる行為」にあたる。Xはこのような主張をすべきである。

第2 設問2について

1 まず、条例25条の「不適正な取引行為」や48条の「消費者の利益が害されるような」といった抽象的な文言があることから、行政庁たる知事には48条の勧告をなすにあたっての要件裁量が認められているといえる。また、同条の「できる」という文言や同条が違反是正の指導と勧告の2つの手段を用意していることからすれば、同条は知事に効果裁量を認めているといえる。

そして、要件の判断や用いる手段の決定には専門的技術的な判断が不可欠だから裁量の範囲が広く認められるとのY県の主張に対し、Xとしては裁量権の行使によりXの営業の自由(憲法22条参照)という重大な利益が侵害されるためその裁量の範囲が限定されるべきだと主張する。

2 次に、要件該当性の判断として、「水道に含まれる化学物質は健康に有害である」という説明は条例25条4号の「消費者を心理的に不安な状態もしくは正常な判断ができない状態に陥らせる方法」に該当し、「ノルマが達成できないとクビになる。助けてくれ」と述べていたことは「消費者に迷惑を覚えさせるような方法」もしくは前述の方法に該当し、「消費者の利益が害されるおそれがある」取引行為(条例48条)に該当するとのY県からの主張が考えられる。

これに対し、Xとしては、上記のような勧誘行動は購入を断る消費者に対して購入を促すよう行ったものであり、25条4号の要件に該当するような不適切なものではないこと、また仮に同号の要件に該当するとしてもこれらの説明は従業員の一部が行ったものであり、その後の指導も徹底し再発防止を心がけていることからすれば、「消費者の利益が害されるおそれがある」までには至らず同要件に該当しないとの主張をなすべきである。

3 仮に要件に該当するとしても、行政庁の裁量権の行使が比例原則に反したり、考慮すべき事項を考慮しなかったり考慮すべきでない事柄を考慮するなどして処分の結果が社会通念上著しく妥当性を欠く場合には、裁量権の逸脱・濫用として行訴法上違法となる(同法30条)。

そして、Y県としては、Xの従業員が行なった説明は悪質なものであり、これに対して勧告を行うことは比例原則に反しないこと、及びXに対する勧告は、Xの再発防止策を考慮した上でも社会通念上著しく妥当性を欠くものではないとして裁量権の逸脱・濫用に当たらないとの反論が考えられる。

しかし、不適正な勧誘は一部の従業員が行ったものにすぎず、会社全体としてそのような勧誘をするよう指導していたわけではない。また、このような勧誘が行われていたことを受け、自主的に指導を行い再発防止を徹底することは全ての企業が行うことではなく、指導の存在自体が会社としての反省の意を示すものであり、このようなXに対して指導勧告を行うことは比例原則に反する。また、意見陳述の機会において、従業員に対し指導教育を行ったことを説明したにもかかわらず、Xの従業員のその後の勧誘における態度やXが行政上の措置を受けたということが対外的に知れ渡ることによりXの信用失墜に基づく融資拒否という重大な不利益が生じることを考慮しない本件勧告は、考慮すべき事項を十分に考慮しておらず、その結果社会通念上著しく妥当性を欠くものといえ、裁量権の逸脱・濫用にあたる。

4 以上のような理由から、本件勧告については取消訴訟における違法自由が存在する。Xはこのような主張をすべきである。

以上

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