平成29年(2017年)予備試験民法答案
武藤遼のプロフィール
初めまして、武藤遼といいます。 まずは自己紹介をさせていただきます。 僕は今、司法試験の受験指導をしています。大学4年生の時からこの仕事をやっています。 武藤流というブランドで教えてます。僕は今25歳なので、3年近く受験指導をしていることに[…]
答案
第1 設問1
1 CがAに対し、甲建物の所有権に基づき、本件登記の抹消登記手続請求できるためには、①Cが甲を所有し、②A名義の登記があることが必要である。本件では、A名義の登記はあるといえる(②充足)。
2 では、Cに甲の所有権が認められるか。
⑴本件では、甲について、Bを起点とした二重譲渡類似の関係になっている。すなわち、平成23年7月14日、AB間で甲の売買契約がされ(第1譲渡)、12月13日に、AC間でも売買契約がされている。そして、Aは本件登記を備え、Cは甲の所有権を主張できないとのAの反論が考えられる(177条)。
⑵そうだとしても、Cは本件登記による虚偽の外観の公示を信頼している。本件では、AB間で本件登記に関する「通じてした意思表示」(94条1項)はないため、同条2項の直接適用はできないところ、94条2項類推適用により、外観通りの譲渡担保があることを、Aに対し、対抗できないか。
ア この点について、94条2項の趣旨は、虚偽の外観を信頼した第三者を、帰責性ある本人の犠牲のもと、保護する権利外観法理にある。
そこで、a虚偽の外観の存在b本人の帰責性がある場合は、第三者を保護するため、同項の類推適用を認めるべきである。さらに本件のように、Aに外観作出の認識がない場合、110条の法意からc第三者の善意無過失が必要を考える。
イ これを本件についてみる。本件では、本件登記という虚偽の外観が存在する(a)。また、本件登記がされたのは、AがBの言葉をうのみにしたからである。Aは法律知識に乏しい素人であるが、親戚からの登記の助言を受けたのであるから、書面の意味を確認すべきであった。1000万円という高額な買い物であることを考えても、Bに言われるままに署名、押印したことに、相当な落ち度があり、帰責性があったといえる(b)。もっとも、Cは、Aが実際甲の譲渡担保権者でないことを知らないことに過失があった(c不充足)。
ウ したがって、94条2項を類推適用できない。
⑶そのため、Aの反論は認められ、Cに甲の所有権は認められない(①不充足)。
3 よって、Cの請求は認められない。
第2 設問2
1 CのEに対する請求
⑴CのEに対する甲建物の明渡請求は認められるか。
ア まず、本件のCD間の解除は、合意によるものであるところ、かかる解除をEに対抗できるか。
この点について、DE間の賃貸借は、CDの賃貸借を基礎にされている。同解除がされた以上、Eは甲の占有基盤を失うため、Cの請求を拒めないとも考えられる。
しかし、Cは、Eの転貸を「承諾」(612条1項)しておきながら、同契約期間中、任意に転借人の地位を奪うのは背理(1条2項参照)であるし、転借人の保護をあまりにも害する。また、398条の法意にも反する。
したがって、CDの解除は、Eに対抗できない。
イ そして、CDの合意により、DE間の契約内容はCE間で引き継がれ、Dの賃貸人の地位はCに移転すると考える。
また、同地位の移転について、Eの承諾はないが、賃貸人は没個性的な債務を負担するに過ぎないし、Eの保護に資するので、Eの合理的意見に合致する。そのため、Eの承諾は不要である。
ウ よって、CのEに対する明渡請求はできない。
⑵また、CEではDEの契約を受け継ぐと考えるため、家賃は月額15万円である。そのため、CのEに対する月額25万円の賃料請求も認められない。
2 EのCに対する請求
⑴雨漏りの修理費用の30万円は、「必要な修繕」(606条1項)のためのものであり、EはCに請求できそうである。
もっとも、同費用の支出は、DEの賃貸借契約期間中である。そのため、転借人の賃貸人に対する同請求は認められない(613条1項)。
⑵そうだとしても、Eは雨漏りの修繕により、修繕費用という「損失」を受け、Cは甲の価値の上昇という「利益」を受けており、両者には社会通念上因果関係がある。そこで、Eは、Cに対する不当利得返還請求(703条、704条)できないか。「法律上の原因」がなかったといえるか検討する。
ア この点について、不当利得制度の趣旨は、実質的公平にある。損失者の犠牲の下、対価関係なく利得者が利益を得た場合には、請求を認めるのが公平であるため、この場合には、「法律上の原因」がなかったといえる。
イ 本件でも、もともとCD間で相場の賃料が25万円のところ、必要費の修繕は、Dが負担する約束で、15万円に安くしてもらっている。したがって、Cは対価関係なく利益を得たとはいえない。
ウ したがって、「法律上の原因」があったといえる。
⑶よって、同請求は認められない。
以上
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