平成29年(2017年)予備試験憲法答案
武藤遼のプロフィール
初めまして、武藤遼といいます。 まずは自己紹介をさせていただきます。 僕は今、司法試験の受験指導をしています。大学4年生の時からこの仕事をやっています。 武藤流というブランドで教えてます。僕は今25歳なので、3年近く受験指導をしていることに[…]
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答案
第1 甲の立場からの憲法上の主張
1 甲は農産物Xを生産する自由を有しているところ、本件条例は、A県知事が一定の場合に生産者に対し農産物Xの処分を命じることを認めており、甲の上記自由を侵害している。そのため、本件条例の合憲性を検討する。
⑴ 憲法(以下省略)29条1項は、私有財産制のみならず、個々人が現に保有する具体的な財産上の権利も保障している。そのため、上記自由は同項によって保障される。
⑵ 本件条例においては、①A県知事が収穫されたXの廃棄を命ずること、②A県知事がXの廃棄を代執行できることを定めており、甲の財産を強制的に侵害できるとされ、上記自由に対する制約が存在している。
⑶ 所有権は、物に対して使用・収益・処分する権利であり、財産権の中でも最も重要な権利である。そして、本件条例においては、Xについて一定割合を一律に廃棄することを生産者に対して命ずることができ、命令に従わない場合は、Xの廃棄を代執行できるとされているため、規制の態様は強度であるといえる。そこで、必要最小限度の制約であるといえる場合に限り許される。
⑷ 本件条例の立法目的は、Xの生産量を調整し、流通量を一定にすることで価格を安定させ、A県産のXのブランド価格を維持し、もってXの生産者を保護することにある。しかし、Xのブランド価値を維持するためにはXの流通量を調整するなどの手段もあるのであり、廃棄という手段は目的達成のためとはいえ過度の規制であるといえる。そのため、必要最小限度の制約とはいえない。
⑸ したがって、本件条例は29条1項に反し違憲である。
2 また、仮に本件条例が同項に反しないとしても、損失補償を必要としないとする本件条例③の規定は29条3項に反し違憲である。
⑴ 損失補償は、公益のために用いることで「特別な犠牲」がある場合に認められる。「特別の犠牲」があるといえるためには、侵害の対象が特定の個人または団体であって、侵害行為が財産権に内在する社会的制約として受任すべき限度を超えて財産権の本質的内容を侵すほど強度なものでなければならない。
⑵ これを本件についてみる。侵害の対象はA県内のX生産者と特定されており、侵害の態様は収穫されたXの廃棄という所有権の喪失を伴うもので、財産権の本質的内容である所有権を侵害するもので強度なものであるといえる。
⑶ したがって、本件条例③の規定は29条3項に反する。
3 以上より、本件条例は違憲である。
第2 反論及び私見
1 本件条例①②の規定について
⑴ 想定される反論
財産権に対する制約には専門的技術的判断が必要であり、法制度による制限を前提としている。そのため、相当程度の制約が許される。
本件においては、Xの特性上事前に出荷量を調整することは困難であるから、生産後に廃棄して出荷量を調整するという手段は、Xの生産者を保護するという目的のため適当な手段であるといえる。よって、本件条例①②は合憲である。
⑵ 私見
ア 本件では、原告の主張する通り、原告の主張する自由は29条1項で保障される。また、かかる自由に対する制約も存在する。
イ 本件条例は、財産権の核心となる所有権を侵害するものである。もっとも、財産権の制約には専門的技術的な判断を必要とし、法制度による解決が想定されている。そこで、①目的が重要であり、②手段が目的との関係で効果的で過度でない場合には当該制約は合憲であるといえる。
ウ これを本件についてみる。本件条例の目的は原告主張の通りであるところ、かかる目的は生産者の生活を安定に資するものであり重要であるといえる(①充足)。そして、Xは特性上事前の生産調整、備蓄、加工等が困難であり、流通量の調整及びXのブランド価値の維持のためには、一律に廃棄する手段は効果的かつやむをえない手段といえる。そのため、手段が目的との関係で効果的で過度でないといえる(②充足)。
エ よって、本件条例①②は29条1項に反せず、合憲である。
2 損失補償
⑴ 想定される反論
本件における規制は、Xの生産者全てに対して課されているものであるから、特別の犠牲とはいえず、損失補償を必要としないとする本件条例③は、29条3項に反しない。また、仮に特別の犠牲にあたるとしても、29条3項によって直接補償の請求ができる。したがって、本件条例③は合憲である。
⑵ 私見
ア 「正当な補償」について
そもそも、29条3項が正当な補償を要求した趣旨は、特定の個人の犠牲のもとに社会全体が利益を得るのは平等原則に反する点にある。そこで、特別な犠牲といえる場合には補償が必要となると解する。特別の犠牲があるといえるためには、侵害の対象が特定の個人または団体であって、侵害行為が財産権に内在する社会的制約として受任すべき限度を超えて財産権の本質的内容を侵すほど強度なものでなければならない。
これを本件についてみる。本件条例③はXの生産者という特定の個人または団体を対象としている。そして、Xの廃棄という侵害態様は所有権の放棄を強制するものであり、財産権の本質的内容を侵すほど強度なものであるといえる。
したがって、特別の犠牲といえ、「正当な補償」が必要となる。
イ もっとも、私人の裁判的救済の見地から、同項の保障する正当補償請求権は具体的権利と解されるので、同項を直接の根拠として損失補償の請求が可能である。そのため、本件条例③が補償を定めていないことを理由に本件条例を違憲と知る必要はない。
ウ よって、本件条例③は合憲である。
以上
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