平成29年(2017年)予備試験刑事訴訟法答案
武藤遼のプロフィール
初めまして、武藤遼といいます。 まずは自己紹介をさせていただきます。 僕は今、司法試験の受験指導をしています。大学4年生の時からこの仕事をやっています。 武藤流というブランドで教えてます。僕は今25歳なので、3年近く受験指導をしていることに[…]
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答案
第1 設問1
1本件において、警察官は、犯行から約30分後、犯行現場から約2キロメートル離れた路上で甲を現行犯逮捕しているが、これは適法か。
2 まず、212条1項に基づき現行犯逮捕できるか。
⑴ この点について、逮捕は強制処分にあたるため、裁判官の発する令状によらなければ許されないのが原則である。しかし、213条において、現行犯逮捕は、令状主義の例外が認められている。その趣旨は、犯罪の嫌疑が明白であって誤認逮捕のおそれが少ない一方、身柄拘束の必要性が認められることにある。
そうすると、現行犯逮捕するための要件は、「現に罪を行い」又は「現に罪を行い終わった者」であること(現行性)、逮捕の必要性があることである。現行性については、①犯罪と犯人の明白性と、②犯行と逮捕行為との時間的・場所的近接性から判断する。
⑵これを本件についてみる。警察官が甲を逮捕したのは、犯行から約30分後であり、犯行と逮捕行為が時間的に接着していたとはいえない。(②不充足)。
⑶したがって、同項に基づき現行犯逮捕はできない。
3 そうだとしても、同条2項に基づき準現行犯逮捕できるか。
⑴まず、甲が準現行犯人にあたるか。
ア 同項各号該当性を検討するに、Wは一度犯人を見失っているから「犯人として追呼されている」(同項1号)とはいえない。また、犯行に使用したサバイバルナイフは、被害者Vの胸部に刺さったままであったから、「犯罪の用に供したと思われる兇器」を「所持」していたとはいえない(同項2号)。次に、確かに、甲は、目撃者Wから聴取した犯人の特徴と合致している。しかし、被害者の血痕等の「顕著な証跡」はない。そのため、同項3号に該当しない。さらに、甲は職務質問において、犯行を認めており、同項4号にも該当しない。したがって、同項各号該当性は認められない。
イ 次に、「罪を行い終わってから間がない」かは、犯行から逮捕までの時間的場所的近接性により判断すべきであると解する。警察官が甲を逮捕したのは、Wの通報から30分も後であり、時間的近接性があるとは言いがたい。さらに、逮捕場所は犯行現場から約2キロメートルとかなり離れており、場所的近接性もあるとはいえない。したがって、「罪を行い終わってから間がない」といえない。
ウ また、警察官の職務質問に対し、甲は犯行を認めているが、甲が身代わりとなっている可能性や嘘をついている可能性を否定できない。さらに、警察官は、Wから特徴を聞いているものの、上記の通り、甲と犯罪を結びつける決定的な証拠とはいえない。したがって、逮捕者である警察官にとって、犯罪と犯人が明白であるともいえない。
エ そのため、甲は準現行犯人に当たらない。
⑵よって、同項によっても現行犯逮捕できない。
4 以上より、①の現行犯逮捕はその要件を満たさないので違法である。
第2 設問2
1 小問1
⑴②の公訴事実は、犯行の日時が平成29年5月21日午後10時頃と幅のある記載になっているところ、かかる記載は罪となるべき事実を特定しているといえるか。
ア この点について、256条3項が訴因の特定を要求した趣旨は、裁判所との関係で審判対象を限定し、被告人との関係で防御対象を明示することにある。
そうすると、訴因の特定の程度は、①犯罪が識別でき、②被告人の防御を不当に害しない限度であることが必要といえ、その場合には幅のある記載であっても許されると解する。
イ これを本件についてみる。本件においては、日時が平成29年5月21日午後10時頃と幅のある記載になっているが、犯行が行われた場所、方法は特定されており、他の犯罪事実と識別できる程度のものであるといえる(①充足)。そして、場所、方法が特定されていれば、被告人の防御範囲も明確になり、被告人の防御を不当に害しているともいえない(②充足)。
⑵よって、②の記載は、罪となるべき事実を特定したものといえる。
2 小問2
⑴③の検察官がした釈明の内容は、共謀の成立についてのものであるところ、これは②の公訴事実には出てきていなかった内容のものである。そのため、これは訴因の内容となるのかが問題となる。
ア この点について、訴因の特定の趣旨は、前述の通り、裁判所との関係で審判対象を限定し、被告人との関係で防御対象を明示することにある。そして、審判対象が特定されていれば、被告人の防御範囲も明確になるから、訴因の特定の機能としては、告知機能が第一義的機能であると考える。そのため、訴因の内容としては、犯罪事実の特定に必要な事実、すなわち訴因がその告知機能を果たすために必要な事実が含まれ、それ以外の事実は含まれないと解する。
イ これを本件についてみる。本件において、検察官は、共謀の日時について釈明している。もっとも、共謀の日時についての詳細な記載がなくとも、犯罪行為の日時の記載があれば、他の犯罪事実を識別することは可能であり、訴因の告知機能を害しないといえる。そのため、共謀の日時という事実は、犯罪事実の特定に必要な事実とはいえない。
ウ したがって、共謀の日時は訴因の内容とはならない。
⑵よって、③の釈明は訴因の内容とはならない。
3 小問3
⑴裁判所が証拠調べにより得た心証が、訴因の内容となっていない場合、それを認定して有罪の判決をすることは許されるか。
ア この点について、訴因を特定する趣旨は、被告人との関係では、防御対象を明示することにある。そうすると裁判所が有罪判決をするためには、訴因の内容に基づいたものでなければならず、被告人の防御権を不当に侵害するものであってはならない。そのため、被告人の防御権を不当に侵害する認定により、有罪の判決をすることは許されないと解する。
イ 本件において、裁判所が証拠調べにより得た心証は、平成29年5月11日についてのもので、公訴事実において主張されている平成29年5月21日のものとも、検察官が釈明している平成29年5月18日のものとも別の日時にものである。これは、裁判所が証拠調べにより得た心証について、訴因の対象とは異なるものである。
ウ 従って、上記のような訴因の対象となっていない事実を裁判所が認定して有罪の判決をすることは、被告人に不意打ちとなり、防御権を不当に侵害しているといえる。
⑵よって、裁判所が証拠調べにより得た心証に基づき、有罪判決をすることは許されない。
以上
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