平成28年(2016年)予備試験民事訴訟法答案
武藤遼のプロフィール
初めまして、武藤遼といいます。 まずは自己紹介をさせていただきます。 僕は今、司法試験の受験指導をしています。大学4年生の時からこの仕事をやっています。 武藤流というブランドで教えてます。僕は今25歳なので、3年近く受験指導をしていることに[…]
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答案
第1 設問1⑴について
1 証拠調べの結果明らかになった事実に基づきXの各請求をいずれも棄却する旨の判決をすることは弁論主義に違反する。
2⑴弁論主義とは、判決の基礎となる証拠や資料の提出を当事者の権能かつ責任ともする原則をいい、その趣旨及び機能は当事者の意思を尊重するとともに不意打ちを防止することにある。かかる弁論の趣旨及び機能から裁判所は当事者の申し出ていない事実を判決の基礎とすることができない(弁論主義第1テーゼ)。
もっとも、手続の安定性、明確性の観点から訴訟の勝敗に直結する主要事実についてのみ弁論主義を及ぼせば十分であること、主要事実との関係で証拠と同様の働きをなす間接事実や補助事実について弁論主義を適用すると裁判官の自由心証を害する恐れがあることから、弁論主義の対象は主要事実に限られると解する。
⑵これを本件についてみる。本件では、Xが1000万円をY2に対して返済することで甲土地を取り戻しうるとの約定で甲土地をY2のために譲渡担保に供したとの認定がなされている。Y1らは、Y2がXとの間でXが所定の期間内にY2に代金1000万円を支払うことにより甲土地をXに売り渡す旨の合意をしたとの主張をしており、これにより、弁論主義違反はないとも思える。しかし、上記主張はXY2間の1000万円の授受が譲渡担保のために行われたことをY1らは主張していない。そのため、Xは1000万円支払いが譲渡担保としてなされたかについての主張立証を行うことができず、これが譲渡担保と認定されればXへの不意打ちとなり、手続保障が害される。そうだとすれば、ある事実が主要事実として認定されるためにはそれがいかなる法律構成を基礎づける事実であるかとともに示される必要があり、法律構成が示されない場合には事実の主張があってもこれが主要事実としては認定されないというべきである。
⑶したがって、当事者から譲渡担保成立についての主要事実について主張がなされたとはいえず、裁判所の上記認定は弁論主義第1テーゼに反する。
3 以上のような理由から、Xの各請求をいずれも棄却することは弁論主義に反する。
第2 設問1⑵について
1 本問では、当事者と裁判所の間では法律構成に差があるにすぎず、弁論主義違反の問題は生じない。そうだとして、裁判所は直ちに本件訴訟の口頭弁論を終結して判決をすることができるのか
2 本件訴訟においては、譲渡担保という法律構成について当事者から主張がなされていないところ、裁判所は釈明権を行使し、譲渡担保という法律構成を当事者に示唆すべきだったのではないか。裁判所が法的観点指摘義務を有するかが問題となる。
⑴まず、「法律上の事項」とあるから、裁判長は法律構成についても釈明権を行使しうる(149条)。そして、確かに、法律判断は裁判官の専権事項であるから、裁判官に法的観点指摘義務は認められないとも思える。しかし、法律構成が変われば争う事項も変わるのだから、裁判所は当事者に法律構成を示唆し、争う機会を与えて手続保障を図るべきである。したがって、裁判所は法的観点指摘義務を負うと解する。そして、その義務違反については、当事者の手続保障などの観点から判断すべきと解する。
⑵これを本件についてみる。本件では、XY2間の1000万円の授受についてY1らからこれが譲渡担保のためになされたとの主張がなされていない。そうだとすれば、Xは1000万円の授受について、それが譲渡担保に当たるかについて主張立証の機会を与えられず、またその可能性もなかったのであって、このまま譲渡担保が認定されるとXの手続保障を害することになる。そうだとすれば、裁判所は当事者に譲渡担保という法律構成を示唆し、当事者に争う機会を保障すべきであるといえる。
⑶したがって、法的観点指摘義務があり、法律構成を示唆しないことはかかる義務に違反することになる。
3 よって、直ちに本件訴訟の口頭弁論を終結して判決をすることは違法である。
第3 設問2について
1 本件訴訟の確定判決により、確定判決の判断内容の後訴における通用力ないし拘束力たる既判力が生じるところ、これはZに対して及ぶか、
2 まず、既判力の正当化根拠は当事者の手続保障に基づく自己責任にあるところ、手続保障が認められるのは訴訟において具体的に攻撃防御を行った当事者のみであるから、既判力は原則として「当事者」にのみ認められる(115条1項1号)。本件では、Zは本件訴訟の当事者ではなく、既判力が及ばないのが原則である。
3 しかし、Zは本件訴訟の口頭弁論終結後にY2から甲土地を譲り受けており、「承継人」(同項3号)にあたるとして、例外的に既判力が及ぶのではないか。「承継人」の意義が問題となる。
⑴この点、同号の趣旨は、敗訴当事者が訴訟終了後に目的物を第三者に譲り渡すなどして判決による紛争解決が無意味になることを防ぎ、もって紛争解決の実効性を図ることにある。そうだとすれば、「承継人」とは広く、紛争主体たる地位を承継した者をいうと解する。
⑵これを本件についてみる。Xの請求は所有権移転登記の抹消登記請求であるところ、かかる請求の相手方は現在の登記名義人である。そうだとすれば、ZがY2から甲土地を譲り受け、所有権移転登記を備えた場合、ZはXの請求の相手方となる地位を承継したといえる。
⑶よって、Zは「承継人」にあたり、本件訴訟の確定判決はZに対しても及ぶ。
以上
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