平成28年(2016年)予備試験刑法答案
武藤遼のプロフィール
初めまして、武藤遼といいます。 まずは自己紹介をさせていただきます。 僕は今、司法試験の受験指導をしています。大学4年生の時からこの仕事をやっています。 武藤流というブランドで教えてます。僕は今25歳なので、3年近く受験指導をしていることに[…]
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答案
第1 甲が乙宅という「住居」に、乙が甲宅という「住居」に放火目的という「正当な理由」なく立ち入った行為にそれぞれ住居侵入罪(130条前段)が成立するか。
1 この点について、「侵入」とは住居権者の意思に反する立ち入りをいう。甲宅の住居権者は甲であり、乙宅の住居権者は乙であるところ、両者は共同してそれぞれの家に放火することを計画しているから、放火目的での立ち入りは住居権者の意思に反する立ち入りといえず、「侵入」に当たらない。
2 したがって、同罪は成立しない。
第2 甲及び乙が、甲宅にX発火装置を運び込んで、設定した行為に現住建造物放火罪(108条)が成立するか。
1 まず、上記行為が「放火」にあたるか。
⑴「放火」は同罪の実行行為であり、実行行為とは構成要件的結果発生の現実的危険性を有する行為をいう。そのため、「放火」といえるかは、当該行為が同罪の結果発生の現実的危険性を有するかで判断すると解する。
⑵これを本件についてみる。X発火装置は、時間を設定すれば、その時間に発火し、その火を周囲のものに燃え移らせる装置である。そうだとすれば、時間を設定さえすれば、装置が発火し、火災の発生が現実的なものとなるといえるから上記行為は構成要件易結果発生の現実的危険性が認められる。
⑶したがって、上記行為は「放火」にあたる。
2 次に、甲宅にはBがおり、「現に人がいる建造物」にあたる。
3 そうだとしても、燃え移った火は途中で消えており、甲宅は全焼していない。そのため、「焼損」したといえるか。「焼損」の意義が問題となる。
⑴この点、放火罪は自己物に対しても成立し、また毀棄罪と比べてその法定刑が格段に重いことからすれば放火罪は公共危険犯的性格を有すると解する。そこで、「焼損」とは火が媒介物を離れて目的物に延焼し、独立に燃焼を継続しうるに達した状態をいうと解する。
⑵これを本件についてみる。火は木製の床版に燃え移っているところ、床版は壊さなければ取り外しが容易でなく、甲宅の一部であるといえる。そのため、火が媒介物を離れて、独立に燃焼を継続しうるに達したといえる。
⑶したがって、「焼損」したといえる。
4 そして、甲及び乙は「共同して」上記行為を行っており、共同正犯となる(60条)。
5 しかし、甲及び乙は甲宅にBがいることを知らず、同罪の故意(38条1項本文)が認められず、同罪は成立しない(同条2項)。
第3 では、上記行為に非現住物放火罪(109条1項)が成立しないか。同罪の客観的構成要件該当性が認められるかが問題となる。
1 この点、構成要件は保護法益と行為態様に着目した犯罪類型であるから、保護法益と行為態様に重なり合いが認められれば、その限度で故意に対応した客観的構成要件該当性が認められると解する。
2 これを本件についてみる。本件において、現住建造物放火罪と非現住建造物放火罪とで、行為態様は異ならないといえるから、行為態様は同一である。そして、現住建造物放火罪の保護法益は住居内の人の生命、身体、財産および公共の安全にあり、非現住建造物放火罪の保護法益は、住居内の財産及び公共の安全にあり、両者は住居内の財産及び公共の安全という限度内において保護法益の重なり合いがあるといえる。
3 また、甲宅には火災保険がかけられており、「保険に付したもの」(115条)として、公共の危険の発生の有無にかかわらず、109条1項の罪が成立する。
4 したがって、同罪の客観的構成要件該当性が認められ、同罪が成立する。
第4 次に、乙宅にY発火装置を運び込んで、設定した行為に現住建造物放火罪が成立するか。前述したのと同様に上記行為は「放火」にあたる。
1 まず、乙宅にはAが居住しているところ、上記行為時点でAは旅行に出かけている。そこで、乙宅は「現に人が住居として使用し」ているとはいえないのではないか。
⑴この点、起臥寝食の場としての使用形態が変化しているかで判断する。本件では、Aは旅行に出かけて一時的に家を留守にしているだけであり、家財道具をすべて持ち出したなどといった事情はないから、起臥寝食としての使用形態に変化はない。
⑵したがって、現住性は認められ、「現に人が住居として使用し」ているといえる。
2 そうだとして、甲及び乙がY発火装置を運び込んだのは乙物置であるところ、乙建物は「住居」にあたらないのではないか。非現住部分と現住部分の一体性が問題となる。
⑴この点、同罪は現住部分に存在可能性のある人の生命、身体の安全を保護するため設けられた規定であるから、建物の一体性の判断に当たっては、非現住部分から現住部分への延焼可能性といった物理的一体性や非現住部分と現住部分の機能的一体性を考慮すべきである。そして、一体性の判断は構成要件該当性の問題であり、構成要件は社会通念に従い分類された犯罪類型である。そこで、一体性の判断は、物理的一体性と機能的一体性を考慮要素として社会通念に従って判断すべきと解する。
⑵これを本件についてみる。乙物置と乙建物は屋根付きの長さ約3メートルの木造の渡り廊下でつながっており、物理的一体性がある。そして、渡り廊下でつながっている以上、住居の一部として使用されているといえ、機能的一体性もあるといえ、社会通念に照らして一体性を有するといえる。
⑶したがって、乙物置も「住居」にあたる。
3 もっとも、発火した火は乙建物には燃え移っておらず、段ボール箱にしか燃え移っていない。段ボール箱は乙建物との一体性を有しないから、火が媒介物を離れて目的物に延焼したとはいえず、「焼損」にあたらず、現住建造物放火未遂罪が成立する(112条)。
4 そして、上記行為も甲と乙が「共同して」行っており、共同正犯が成立しうる。
5 そうだとしても、乙は消火活動を行っており、これにより共犯からの離脱が認められないか。
⑴この点、共同正犯において一部執行全部責任の原則が認められる根拠は、二人以上の者が共同意思のもとに一体となって、互いに他人の行為を利用して特定の犯罪を実行する相互利用補充関係にある。そのため、物理的・心理的因果性が排除されるならば、相互利用補充関係が消滅したといえ、共犯からの離脱が認められると解する。
⑵これを本件についてみる。乙は消火活動を甲に無断で行っており、心理的因果性は排除されず、またY発火装置を持ち込んだという物理的因果性も排除されていない。
⑶したがって、共犯からの離脱は認められない。そのため、共同正犯が成立し、未遂罪が成立する。
6 しかし、乙は「自己の意思により」消火活動という真摯な努力をしたといえ「中止した」といえるから、中止犯が成立し、刑が必要的に減刑される(43条但し書き)。同条但し書きの刑の必要的減刑の根拠は中止行為に現れた真摯な態度による責任の減少にあるところ、責任は個別に判断すべきであるから、中止犯の成立は甲に影響しない。
第5 保険金の支払いの請求に向けた「欺」く行為がなく、詐欺罪(246条1項)は成立しない。
第6 以上より、非現住建造物放火罪と現住建造物放火未遂罪が成立し、両者は社会通念上別個の法益を対象とするから、併合罪(45条前段)となり、甲及び乙は共同正犯となり、両者はかかる罪責を負う。そして、乙に中止犯が成立し、刑が必要的に減免される。
以上
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