平成25年(2013年)予備試験刑法答案

武藤遼のプロフィール

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初めまして、武藤遼といいます。 まずは自己紹介をさせていただきます。 僕は今、司法試験の受験指導をしています。大学4年生の時からこの仕事をやっています。 武藤流というブランドで教えてます。僕は今25歳なので、3年近く受験指導をしていることに[…]

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2013年刑法問題

答案

第1 Vに現金50万円を振り込ませた行為

1 甲の上記行為について、詐欺罪(246条1項)が成立しないか。

⑴ 甲は自己をVの息子と偽り示談金を自分の代わりに支払うようにVに申し向けているところ、甲が全くの他人であるとわかっていれば、Vはおろか一般人も通常は示談金を振り込むことはないといえる。そうだとすれば。甲の上記行為は、「財物」たる現金50万円を振込むという処分行為に向けられた重要な事実を偽る行為といえ、「欺」く行為に当たる。

⑵ 上記行為により、Vは50万円を振り込んでいるものの、甲の口座ではなく他人Aの口座に振り込んでいる。もっとも、甲はA名義の預金通帳、キャッシュカード、暗証番号を入手している以上、A名義の口座から現金を引き出すことは可能かつ容易である。そうだとすると、Vが50万円を口座に入金した時点において、現金の占有が移転したといえ、「財物」を「交付させた」といえる。

⑶ よって、同罪が成立する。

2 乙に同罪の共謀共同正犯(60条・246条1項)が成立するか。

⑴ この点について、共同正犯(60条)の処罰根拠が共犯者間の相互利用補充関係にあることにかんがみ、共謀と、共謀者の一部による共謀に基づく実行行為、正犯意思があれば、実行行為を行っていなくとも共同正犯が成立すると解する。

⑵ これを本件についてみる。乙は、甲と問題文①から⑤について共謀のうえ、甲に上記詐欺行為を行わせている。そして、甲の上記行為は、乙の準備した部屋から乙の準備した携帯電話を用いて、息子を装い示談金相当の金銭を振り込ませるという形でなされているが、これは甲乙間における当初の共謀の内容通りである。さらに、乙は分け前も7割を得るという正犯意思も有しているのであるから、甲の上記行為についても共同正犯が成立するとも思える。

しかし、当初の共謀では、詐欺行為の実行に必要不可欠な他人名義の預金口座や、実際に現金を引き出すために必要不可欠な預金通帳、キャッシュカード、暗証番号は乙が準備することになっていたところ、Vに対する行為については甲がこれらの準備を自ら行い、乙は一切関与していない。また、当初の共謀では分け前の7割が乙であったにもかかわらず、上記行為によって利益を得るのは甲のみである。そうであれば、当初の共謀の因果性が結果に及んでおらず、甲乙間に相互利用補充関係が認められない。

⑶ したがって、同罪の共謀共同正犯は成立しない。また、乙は上記行為を物理的にも心理的にも容易にしておらず、同罪の幇助犯も成立しない。

第2 現金自動預払機から現金50万円を引き出そうとした行為

1 丙の上記行為について、D銀行E支店に対する窃盗未遂罪(250条、235条)が成立しないか。

⑴ 本件では、上記行為の時点において、同口座の取引停止措置により、現金50万円を引き出せる可能性はなかった。そうすると、丙の行為は、窃盗罪の現実的危険性がなく、「他人の財物」の「窃盗」行為といえないのではないか。

ア この点について、構成要件が社会通念に基づいた違法有責行為類型であることに照らし、実行行為性の有無は、行為者が認識していた事情及び一般人が認識し得た事情を基礎として、行為時に一般人の観点から構成要件的結果発生の現実的危険があるといえるかにより判断すべきであると解する。

イ これを本件についてみる。本件行為当時において、丙は同口座が取引停止となっていることを知らなかったのは勿論、一般人でさえそれを認識することは不可能であるから、このことは基礎事情から除かれる。そうすると、キャッシュカードと暗証番号を所持している者がATMから銀行を引き出そうとしている以上、一般人の観点からは、現金が占有者の意思に反して丙の占有に移る現実的危険性があるといえる。

ウ したがって、実行行為性が認められる。

⑵ もっとも、丙は50万円を引き出せていないから、上記行為には窃盗未遂罪(243条・235条)が成立する。

2 甲に窃盗未遂罪の共謀共同正犯(60条・235条)が成立するか。

⑴ これについて、甲は実行行為を行っていないから、前述した基準で判断する。丙が現金50万円を引き出して甲に渡すことについて両者の間で合意が認められるから、共謀は存在する。また、当該共謀に基づいて丙が実際に現金50万円を引き出そうとしており、その行為に実行行為性が認められる以上、他の共犯者たる丙が実行したといえる。さらに、50万円のうち45万円は実行者でない甲が取得すること、現金50万円は甲自ら実行した犯罪により得た利益であり、乙の実行行為に向けた重要な役割を有していることからすれば、甲は自己の犯罪として上記行為を丙に行わせたものといえるから、甲に正犯意思を肯定することができる。

⑵ したがって、窃盗未遂罪の共謀共同正犯が成立する。

第3 罪数

甲は詐欺罪及び窃盗未遂罪の共同正犯の罪責を負い、両者は併合罪(45条前段)として処断される。また、丙は窃盗未遂罪の共同正犯の罪責を負い、乙は何ら罪責をも負わない。

以上

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