平成24年(2012年)予備試験商法答案
武藤遼のプロフィール
初めまして、武藤遼といいます。 まずは自己紹介をさせていただきます。 僕は今、司法試験の受験指導をしています。大学4年生の時からこの仕事をやっています。 武藤流というブランドで教えてます。僕は今25歳なので、3年近く受験指導をしていることに[…]
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答案
第1 設問1について
1 本契約の効力に関する問題点
⑴ まず、本件売買契約が直接取引(356条1項2号)に当たるかが問題となる。これについて、「自己又は第三者のため」とは自己又は第三者の名義においてという意味と解されるところ、X社を代表したのはAであり、Bが自己又は第三者の名義で同契約を締結したのではない。そのため、「自己又は第三者のため」とはいえず、直接取引には当たらない。
⑵ では、本件売買契約が間接取引(同号)に当たるとして、Y社はその無効を主張できないか。
ア この点について、同号の趣旨は、会社の犠牲の下に取締役が自己または第三者の利益を図ることを防ぐ点にある。そこで、間接取引に当たるかは、外形的客観的にみて会社が不利益を受け、取締役が利益を得るものかにより判断すべきである。そして、間接取引に当たるとしても、会社の利益保護と取引安全の確保の調和の観点から、間接取引の相手方の承認がないことにつき悪意である場合に限り、当該会社はその取引の無効を主張できると解する。
イ これを本件についてみる。BはX社の取締役であるから、本件売買契約を外形的客観的にみた場合、Y社の支出の下でBが利益を得るといえ、間接取引に当たる。もっとも、X社は、Y社の承認がないことにつき善意である。
ウ よって、Y社は同契約の無効を主張できない。
⑶ 次に、同契約が「重要な財産の……譲受け」(362条4項1号)に当たる場合、Y社は法律上必要な取締役会決議を欠くことになり、同契約は無効となり得る。
ア この点について、同号の趣旨は、会社の事業活動に影響を及ぼす重要な財産の譲受けについて判断の慎重を期す点にある。そこで、「重要」といえるか否かは、当該財産の価額やその会社の総資産に占める割合等を総合考慮して判断すべきと解する。
これを本件についてみる。本件生地の代金は1億円とそれ自体高額であり、直近数年の年間売上高の平均と同額であるから、Y社の総資産に占める割合も高いと考えられる。
よって、「重要な財産の……譲受け」に当たる。
イ そうすると、同契約に際しては取締役会の決議が必要になるところ、Y社では取締役会決議がなされていない。取締役会決議を欠く取引行為は、取締役会の内部的意思決定と代表者の意思表示に不一致があるから、心理留保類似の構造がある。そこで、民法93条1項ただし書を類推適用し、取締役会決議がないことにつき相手方が悪意または過失がある場合に限り、無効となると解する。
これを本件についてみる。X社はY社の取締役会決議を欠くことにつき善意である。しかし、X社取締役の中にはY社代表取締役のBがいるため、X社はBに確認することで、Y社取締役会決議を欠くことを知り得たといえ、過失があるといえる。
よって、同契約は無効となる。
2 本件売買契約の解除に関する問題点
⑴ Y社は、商法526条2項に基づき解除していると考えられる。
ア まず、本件売買契約はXY両社にとって「その事業のためにする行為」(会社法5条)であるから、「商行為」に当たり、両社はこれを「自己の名をもって」行っているから、「商人」(商法4条1項)に当たる。そのため、同契約は「商人間」(同526条1項)の売買といえる。また、同契約は不特定売買であるが、同条は不特定物売買にも適用されるため、同契約は「売買」に当たる。
イ そして、Y社は本件生地について「検査」を行っている。
ウ さらに、Y社の詳細な検査によっても本件生地が数回の洗濯で極端に色落ちするという瑕疵を発見できなかったのだから、かかる瑕疵は化学繊維業界の商人が通常用いるべき注意によっても発見できないものといえ、「直ちに発見することのできない瑕疵」に当たる。これを受け、Y社は本件売買契約から「6箇月以内」にX社に通知し解除している。
⑵ よって、Y社の解除は有効である。
第2 設問2について
1 Y社は、本件売買契約の無効又は解除による消滅を理由に、Zの本件手形の手形支払請求を拒むと考えられる。
2 まず、原因関係の消滅の抗弁は人的抗弁であるから、Y社はZに対して上記抗弁を対抗できないのが原則である(手形法17条本文、77条1項1号)。
3 もっとも、Zが「債務者ヲ害スルコトヲ知リテ」(17条ただし書)行った請求といえ、Y社は例外的に上記抗弁を対抗できないか。
⑴ この点について、同条本文の趣旨は、手形の流通促進の見地から手形所持人を保護すべく、政策的に抗弁の切断を認める点にある。そこで、「債務者ヲ害スルコトヲ知リテ」とは、所持人がかかる保護に値しない場合、すなわち、所持人が手形を取得するに当たり、満期において、手形債務者が所持人の直接の前者に対し、抗弁を主張して支払を拒むことが確実であると認識していた場合をいうと解する。
⑵ これを本件についてみる。Zは請求時において、同契約の無効を知らなかった。また、Zは、本件手形の振出が同契約の代金の支払のためであることを知っているが、Y社が満期において解除を主張して支払を拒むことが確実とまでは認識していない。
⑶ よって、Zは「債務者ヲ害スルコトヲ知リテ」とはいえず、上記抗弁をZに抗弁できない。
4 以上より、Y社はZの手形金支払請求を拒めない。
以上
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