平成24年(2012年)予備試験刑法答案

武藤遼のプロフィール

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初めまして、武藤遼といいます。 まずは自己紹介をさせていただきます。 僕は今、司法試験の受験指導をしています。大学4年生の時からこの仕事をやっています。 武藤流というブランドで教えてます。僕は今25歳なので、3年近く受験指導をしていることに[…]

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2012年刑法問題

答案

第1 甲の罪責

1 第1に、乙の運転するY謝後部にX車を衝突させた行為につき傷害罪(204条)が成立しないか。

⑴ まず、甲は乙に頚部捻挫という生理機能を害する「傷害」を負わせており、上記行為は204条の構成要件に該当する。

⑵ もっとも、被害者である乙は傷害を受けることに同意をしている。そのため、上記行為の違法性が阻却されないか。

ア この点について、違法性の本質は、社会的相当性を逸脱した法益侵害にある。そこで、被害者の同意が社会通念上相当なものといえれば違法性が阻却されるとかいする。

イ これを本件についてみる。乙の同意は、保険金詐欺の目的のためになされており、このような目的のための同意が社会的相当性を有するとはいえない。

ウ したがって、乙の同意によって違法性は阻却されない。

⑶ よって、上記行為に傷害罪が成立する。

2 次に、上記行為によってY車をAに接触させた行為につき、傷害罪が成立しないか。

⑴ まず、甲の行為は傷害罪の客観的構成要件に該当する。

⑵ もっとも、甲は乙に対する傷害の意図のみを有していたため、Aに対する傷害の故意は認められないのではないか。

ア この点について、故意責任の本質は規範に直面し反対動機を形成できたにもかかわらず、あえて行為を行った反規範的人格態度に対する道義的非難にある。そして、規範は構成要件の形で呈示される以上、構成要件の範囲内で重なり合いが認められれば故意は阻却されないと解する。乙とAは「人」という点で重なり合うから、Aに対する傷害の故意も認められる。

イ そして、発生した結果の数だけ故意を認めても、観念的競合として処理されるから処断上も不都合はない

ウ したがって、Aに対する傷害の故意も認められる。

⑶ よって、上記行為に傷害罪が成立する。

3 甲が、保険会社の担当者Bに事情を秘して保険金を請求した行為は「欺」く行為にあたるが、保険金は支払われず、甲らは「交付」を受けていない。そのため、上記行為に詐欺未遂罪(250条、246条1項)が成立する。

4 以上より、①乙に対する傷害罪、②Aに対する傷害罪、③詐欺未遂罪の罪責を負い、①と②は観念的競合(54条1項前段)、①と③は牽連犯(同項後段)となり、全体として科刑上一罪として処断される。甲は、かかる罪責を負う。

第2 乙の罪責

1 甲と共にY車にX車を衝突させ、Y車をAに接触させた行為につき、傷害罪の共同正犯(60条、204条)が成立しないか。

⑴ まず、上記行為は傷害罪の客観的構成要件を満たす。

⑵ しかし、「人の身体」とは他人の身体をいうところ、乙は自己の身体への傷害の意図しか有しておらず、傷害罪の故意は認められず、同罪は成立しない。

2 もっとも、乙は甲と共に、行動において自動車を衝突させるという不注意な行為を共にする意思を有していることから、自動車運転過失致傷罪(211条2項)の故意を有する。そこで、同罪の客観的構成要件該当性が認められないか。

⑴ この点について、構成要件は法益侵害行為を行為態様と保護法益によって分類したものであるから、行為態様及び保護法益が共通する場合には、実質的な構成要件の重なり合いが認められると考える。

⑵  本件においては、傷害罪と自動車運転過失致傷罪は、人の身体の安全性・完全性という点で保護法益を共通にし、行為態様も重なり合う。

⑶  したがって、自動車運転過失致傷罪の客観的構成要件該当性が認められ、自動車運転過失致傷罪の共同正犯が成立する。

3 保険会社の担当者Bに事情を秘して保険金の支払いを請求した行為につき詐欺未遂罪の共同正犯が成立する。

4 以上により、自動車運転過失致傷罪の共同正犯及び、詐欺未遂罪の共同正犯の罪責を負い、両罪は併合罪(45条前段)として処断される。乙は、かかる罪責を負う。

第3 丙の罪責

1 丙は、傷害罪、詐欺未遂罪について共同正犯としての罪責を負わないか。

⑴ この点につき、共同正犯の一部実行全部責任の根拠は、相互利用補充関係の下に特定の犯罪を実現する点にある。そして相互利用補充関係とは、物的・心的因果を及ぼしあうことをいうから、因果性が肯定される限り、共謀者も責任を負うが、否定されれば、以降の行為に責任を負わない。

⑵ 本件において、丙は、当日の実行着手前に、甲乙に対し離脱の意思を表明し、甲乙はこれを黙示に了承して犯行に出ており、因果性は否定される。

⑶ したがって、同罪は成立しない。

2 よって、丙は何ら罪責を負わない。

以上

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